救命士

2000/01/18 ブエナビスタ試写室
ニコラス・ケイジが緊急救命士を演じるドラマ。監督はスコセッシ。
序盤はすごいが、結論には釈然としない。by K. Hattori


 マーティン・スコセッシの最新作は、『タクシー・ドライバー』でコンビを組んだポール・シュレーダー脚本によるヒューマン・ドラマ。'90年代初頭を時代背景に、救急医療の最先端で働く救命士の目から見たニューヨークの夜を描いている。主演はニコラス・ケイジ。ヒロインを演じているのは彼の妻であるパトリシア・アークエット。ふたりはこれが映画初共演だそうだ。言われてみれば、そうかもしんない……。アメリカは現在バブル景気の真っ最中で、ニューヨークも治安がよくなっているという。しかしこの映画の舞台になっている'80年代末から'90年代はじめのニューヨークとは、風景まで一変しているというから驚きだ。撮影に際してはロケ地探しに苦労したらしいし、役作りのために実際の救急隊にくっついて回ったケイジも、ニューヨークよりロスの方が参考になったと言っているそうだ。以上はすべて、試写室で配られたプレス資料からの受け売り。

 ベテラン救命士のフランクは、半年前にローズという少女を助けられなかったことをきっかけに、重度のノイローゼ状態になっている。人命救助という輝かしい仕事に燃えていたかつてのフランクは消え去り、昨今の彼はひたすらネガティブ思考。昔は目の前で死んだ人のことをすぐに忘れられたのに、今は死んだ人たちが彼の前に亡霊となって現れる。その筆頭は、常にローズだ。不眠症気味のフランクは、仕事とベッドの往復を酒でごまかしながら、辛うじて勤務を続けている……。

 物語は木曜日の夜に始まり、土曜日の夜勤が明けた日曜日の朝に終わる。連日の夜間勤務でフランクとコンビを組む同僚救命士の顔ぶれはその都度変わり、さながら救命士の博覧会。演じているのはジョン・グッドマン、ビング・レイムズ、トム・サイズモアと、いかにも個性的な顔ぶれになっている。こうなると映画が3つのパートに分かれてしまいそうだが、そうならないのは3晩に渡って共通する登場人物の存在があるからだ。フランクが通う聖マリア病院の医師や警備員。毎晩のように救命士のお世話になる名物患者の存在。そして、木曜の晩に心臓発作で病院にかつぎ込まれた男とその娘メアリーとの交流が、登場するエピソードを串刺しにしている。

 映画の序盤には傑作の予感。夜のニューヨークで街頭や車のヘッドライトに照らし出される人々の生態が、まるで熱帯魚の水槽のように詳細に描かれる。この映画には原作小説があるのだが、こうした風俗描写は絶対に映画ならではのものだと思う。しかし映画の終盤、特に結論部分にはどうにも釈然としなかった。結局、主人公はなぜ救われたのか。主人公にとって、メアリーはどんな女性なのか。ローズの幻影はどこに行ってしまったのか。主人公が最後に行った行為は、彼の中でどんな意味があったのか。そうした諸々の疑問が払拭できないまま、映画は終わってしまう。悪い映画ではないだろうし、これに感動する人もいるのだろうが、僕にはどうしても承伏できない結末だった。もう少し説明がほしい。

(原題:BRINGING OUT THE DEAD)


ホームページ
ホームページへ