親指トムの奇妙な冒険

2000/01/14 シネカノン試写室
人形アニメで描かれる「本当にグロテスクなグリム童話」。
『ロスト・チルドレン』にちょっと似てる。by K. Hattori


 イギリスのアニメーション作家、デイヴ・ボースウィックの代表作であり、唯一の長編作品。彼はこの作品の監督であり、脚本家であり、撮影、デザイン、編集を行っている。'93年のイギリス映画で、上映時間は60分。人形アニメと役者を使った芝居を合成(?)しているのだが、役者の動作をコマ撮りすることで、他のアニメーション部分と違和感なく融合している。この映画の中では、役者もアニメ素材のひとつなのだ。それ以外の要素、例えば机の上や壁をはい回るゴキブリ、飛び回るハエ、道をうろつき回る野良犬などは、すべて人形アニメで作られている。これがすべて同時にコマ撮りされているのだから、面倒くさいことこの上ない。出演している役者たちの肉体的苦痛は相当なものだったろう。ちなみにこの作品、製作には18ヶ月かかったという。

 物語はグロテスクにアレンジされたグリム童話の一編。子供のいない夫婦に生まれた小さな小さな赤ん坊“親指トム”は、謎の男たちに拉致されて不気味な研究所へと連れ去られる。そこでは機械と融合した動物や、バラバラに切断されながらも機械につながれて生きながらえている人間の肉体がうごめいている。トムは半機械化したトカゲに導かれて研究所を脱出し、トムと同じ大きさの小人たちの手を借りて両親と再会する。

 映画の中に台詞は一応存在するが、何を言ってるんだかよくわからないほどに歪んでいる。それでもそこでどんな事が話されているのかは十分に理解できるので、この映画の中の台詞は「会話が行われている」という記号として機能しているだけなのだろう。物語も登場するキャラクターも悪夢のようなグロテスクさなのだが、それでもずっと観ているうちに、不格好なトムがたまらなく可愛く思えてくるから不思議だ。トムや小人たちに比べると、この映画に登場する人間たちはひどく醜い。もちろん、その醜さは計算されたものでもあるのだが。

 僕はこの映画を観ながら、ジャン=ピエール・ジュネの『ロスト・チルドレン』を思い出した。少しノスタルジックな都市デザイン、グロテスクな人間たち、半機械化した人間、マッドサイエンティストの研究所といった要素に加え、画面のテイストまでがすごく似ているのだ。『ロスト・チルドレン』は'95年の映画なので、ジュネ監督が『親指トムの奇妙な冒険』を観ていることは十分に考えられる。『親指トム』は'89年に10分間のパイロット版が作られ、世界各地の映画祭やアニメ映画祭で上映され評判になっている。これはジュネ&ギャロの『デリカテッセン』('91年)よりも前だ。

 この映画は日本でも'95年に劇場公開されているそうだが、今回は「ファンタスティック・アニメコレクション」と銘打った特集上映の一環として、ルネ・ラルーの『ファンタスティック・プラネット』と『ガンダーラ』、ヤン・シュヴァンクマイエルの『アリス』と一緒に、俳優座トーキーナイトでレイトショー公開される。興味のある人は、この機会に観ておくべきでしょう。

(原題:The Secret Adventures of Tom Thumb)


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