kamome
カモメ

1999/12/09 東宝東和一番町試写室
ホステス殺しの犯人として時効の3週間前に逮捕された主人公。
実在の事件をモデルにしたドキュドラマ。面白い。by K. Hattori


 昭和57年8月に愛媛県松山市で起きたホステス殺害死体遺棄事件の犯人・福田和子は、平成9年7月29日に福井市内で逮捕された。殺人事件は15年で時効になる。福田和子は14年と340日を警察から逃げ回り、時効3週間前に逮捕されたのだ。この事件については、ワイドショーやマスコミでも大きく取り上げられている。この『Kamome/カモメ』は、福田和子の犯罪と逃亡生活を描いたドキュメンタリー・ドラマだ。監督は『元気の神様』の中村幻児。この映画では、脚本・撮影・編集なども兼任しているほか、主人公を追う刑事のひとりとして出演もしている。

 映画の中では主人公の名が福間和江になっているし、映画の最後には「実際の人物・団体とは一切関係ありません」という断り書きも出てくる。関係者のプライバシーなどに配慮したこともあるだろうが、裁判中の事件を映画化するには、どうしてもこの手の配慮が必要なのだろう。(そう言えば石井輝男の『地獄』でも、実名は出していなかった。)または脚本作りの上で創作の余地を残すために、あえてこのような断り書きを入れたと考えることもできる。映画に描かれていることがすべて事実に沿っているわけではない。しかし、福間和江の犯罪と逃亡遍歴はすべて実在の福田和子をなぞっており、この映画は現実の事件に対するひとつの解釈になっている。

 逮捕された福間和江が取調室で刑事に語る台詞を案内役に、物語は昭和57年までさかのぼる。映画の中には、刑事と福間和江のやりとりそのものは登場しない。主人公の声はモノローグとして処理されており、それを劇中の主人公の言動と対比させることで、福間和江のパーソナリティーをあぶり出していくのだ。彼女のモノローグは、時に劇中の行動とシンクロし、時に劇中の行動を裏切ってしまう。しかしこうした裏腹な言動は、単なる姑息な言い逃れではないらしい。少なくともこの映画の主人公から感じられるのは、その言葉をある程度は本気で語っているらしい様子だ。その背後にあるのは、彼女の被害者意識であり、自分は絶対に正しいことをしているという自信。「何度も死のうと思った」「般若心経もとなえた」と言いながら、彼女は自分の犯した罪についてはまったく悪いことをしたという自覚がないらしい。この手の犯罪事件では決まり文句のように「心の闇」などという言葉が出されるが、彼女の心にあるのは「闇」などという高級なものではない。彼女の心には、人間として大切な何かが欠けているのだ。

 15年という歳月を表現する、ロケーション撮影の見事さ。主人公の放浪とそれを追う刑事たちの足取りを、じつに的確に描いている。最近の邦画で、これほど効果的にロケを行ったものはないと思う。主人公の行動に振り回される周辺の人々の描写が簡潔で、あまり深入りしていないのもいい。「実録映画=きわもの」と思われそうですが、これはじつにいい映画です。ラストの余韻にひたりながら、試写室を出てきました。


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