ミニー&モスコウィッツ

1999/12/09 映画美学校試写室
ジョン・カサヴェテスが自らの結婚体験をもとに描いたラブ・コメディ。
登場人物のほとんどが変人。でも面白い。by K. Hattori


 1971年に製作された、ジョン・カサヴェテス監督のラブ・コメディ。主演はジーナ・ローランズとシーモア・カッセル。さすがにふたりとも若い。今から28年も前の映画ですから当たり前ですが、沈みの激しい芸能界で、その後もふたりが俳優として活躍を続けていることがすごいのかもしれない……。

 主人公のミニーは、ロサンゼルスの美術館で働く独身女性。恋人はいるが妻子持ちで結婚はできず、独身のまま年を取っていくのかもしれない不安を感じている。一方モスコウィッツは、ニューヨークで駐車場係として働くユダヤ人青年。まったく別の場所で別の生き方をしていたふたりは、ある日偶然に出会い、わずか4日間で結婚を決めてしまう。この映画の中には、いろいろなテーマが盛り込まれている。現代人にとっての孤独。人が人を愛するとはどういうことなのか。人生にとって結婚とは何か。自分自身が本当に欲しているものを知るにはどうするか。愛し合う男女が互いの価値観や生き方のちがいを乗り越える方法。間断なく次々にエピソードが繰り出される映画ですが、そのエピソードのひとつひとつがいちいち面白い。2時間近い映画はまったく飽きません。

 この映画、登場人物のほとんどが変人です。映画の冒頭に登場するモスコウィッツのホットドッグを一口かじる男や、ミニーとブラインド・デートした中年男は、明らかに言動が異常です。しかしそれと同じぐらい、主人公のモスコウィッツ本人がいかれてる。ホットドッグのおじさんに話しかけられても迷惑そうな顔をひとつもしないので、僕は彼を「すごく度量の広い奴だな」と感心して見ていたのですが、何のことはない、彼はよその店に入ってホットドッグおじさんと同じことをやってるのです。女の子を見かければ誰彼なしに馴れ馴れしく声をかけまくり、あちこちでひんしゅくを買っている。粗野で乱暴。生活面での向上心はまるでなし。喧嘩っ早くて逃げ足も早いが、腕っ節はまるで弱い。そんなモスコウィッツが、不倫以外には大きな欠点のないミニーと、どうして結婚などできるんでしょうか。でもこの映画では、それがきちんと成立してしまっている。見事です。

 モスコウィッツの口ひげが変な形でずっと気になってしまったのですが、これはユダヤの律法にある「もみあげをそり落としたり、ひげの両端をそってはならない」(レビ記19:27)という教えに沿ったもののようです。モスコウィッツの好物はホットドッグだったりするのですが、はさんであるソーセージには豚肉が使ってるような気がするんだけどねぇ……。結婚式も普通のキリスト教の教会だったみたいだったけど、これは問題ないんだろうか。いろいろ気になってしまいますが、きっとユダヤ人の中にもいろんな人がいるのでしょう。

 知り合って4日間で結婚してしまうカップルの話だから、話の展開はものすごく早い。でも登場人物たちの喜怒哀楽がきちんと描かれているから、話の流れには無理が感じられません。楽しい映画でした。

(原題:Minnie & Moskowitz)


ホームページ
ホームページへ