日曜日の恋人たち

1999/12/08 シネカノン試写室
死体安置所に運び込まれた少女の死体が犯さされて息を吹き返す。
主演はエロディ・ブシェーズとジャン=マルク・バール。by K. Hattori


 現在フランス映画界でもっとも注目される実力派の若手女優、エロディ・ブシェーズの最新作。同時期に犯罪コメディ『キッドナッパー』も公開される彼女だが、こちらはひどく暗い映画になっている。共演は『グラン・ブルー』のジャン=マルク・バール。少女の死体が検死官に犯されて蘇るという話だが、現代版「眠りの森の美女」、あるいはフランス版『ガラスの脳』のような映画を想像すると痛い目に遭う。

 人物配置は単純だし、物語も単純といえば単純だ。生活の中に何の活力も魅力も感じられなくなっている検死官ベンは、乱交やSMなどの変態じみたセックスの中に、わずかばかりの刺激を感じている。彼は世の中のすべてを軽蔑しているのだ。そんな彼のもとに、19歳の少女テレーザの死体が運び込まれる。彼が解剖室でこの少女の死体を犯したところ、死体はにわかに息を吹き返す。この事件は一大スキャンダルになり、ベンの妻は家を飛び出し、かわりに彼を命の恩人と慕うテレーザが彼にまとわりつくようになる……。手の着けられない不良娘だったテレーザが死から蘇り、危険なセックスにのめり込むベンを何とか救おうと天使に早変わり。虎穴に入らずんば虎児を得ずとばかりに、ベンと一緒に落ちるところまで落ちて行く。この映画の中では、死から蘇った少女と自殺志願者だった青年が「生」を目指し、少女を死から救い出した男がひたすら「虚無」や「死」へと転落して行く。なんだか『スタア誕生』みたいだね……。

 1時間31分という短めの映画で、話も単純明快なのに、このわかりにくさと取っつきにくさは何なのか。セックスと死が強く結びつき、背徳が生きる活力を生み出し、道徳が死を呼び寄せるという物語も理解できる。だが僕は、この映画に登場する人々に少しも共感できないのです。特に主人公のベンがさっぱりわからない。この映画に登場する人々は、全員が登場した時点で既に煮詰まった状況に置かれている。彼らが人生の中で感じている悩みや苦しみは臨界点に達し、破裂寸前の風船のように膨れ上がっている。死から蘇ったテレーザが、そこに最後の一撃を加えてしまうのです。しかしこの映画には、誰がなぜ風船を膨らませたのか、なぜそこまで放置し続けてしまったのかという過程が描かれていない。映画の作り手や出演者たちは、それについて考え抜いた結果としてこの映画を作ったのかもしれませんが、その思考の過程がまった映画に現れていないように思えるのです。いきなり鼻先に破裂寸前の風船を突き出されたら、観客は最初から逃げ腰になってしまい、なぜそこに風船があるのかなんて考えなくなってしまうでしょう。

 エロディ・ブシェーズは最近の僕のお気に入りなのですが、今回はベンを演じたジャン=マルク・バールがすごいと思ってしまった。すっかりハゲ上がってしまいましたが、そのハゲっぷりが堂々としていてセクシーです。『奇跡の海』の時は頭部にまだ違和感があったけど、今回は顔と頭がすっかりなじんでました。

(原題:J'AIMERAIS PAS CREVER UN DIMANCHE)


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