マイ・リトル・ガーデン

1999/11/24 シネカノン試写室
ホロコーストを無人のゲットーでサバイバルしたユダヤ人少年の物語。
息苦しい緊張感の連続で、最後までドキドキする。by K. Hattori


 ホロコーストを体験したユダヤ人作家ウリ・オルレブの原作「壁のむこうの街」は、世界各国で賞を取った有名な児童文学作品だという。(日本では偕成社から邦訳が出ている。)第二次大戦中、ナチスに占領されたポーランドのゲットー(ユダヤ人地区)で暮らす、11歳の少年アレックスが主人公だ。ゲットーの中にはしばしばドイツ人の兵士たちがなだれ込み、街を歩くユダヤ人たちを適当に“選別”してはどこかに連れ去ってしまう。連れ去られた人たちはどこに行くのか? それはまったくわからない。ナチスのユダヤ人絶滅計画は、戦後になって初めてその全貌が明らかにされた事実だ。しかしゲットーのユダヤ人たちは、“選別”による拉致が生命の危機に直結していることを本能的に悟っている。連れ去られた人々は、ハガキひとつ寄こさないのだ。やがて、ドイツ人たちはゲットーの封鎖を決定。「お父さんが迎えに来るまで隠れていろ」と伯父に言われたアレックスは、強制退去の列を離れて無人のゲットーに戻っていく。

 『ライフ・イズ・ビューティフル』や『聖なる嘘つき/その名はジェイコブ』に続く、ホロコースト・サバイバルもの。製作は1997年なので、『ライフ・イズ・ビューティフル』の成功にあやかった企画というわけではないようだ。監督はデンマークのソーレン・クラウ・ヤコブセン。デンマーク、ドイツ、イギリスの合作映画で、舞台はポーランドだが言葉は英語になっている。

 映画は主人公アレックスの視点で淡々とゲットー内外の様子を描いているのだが、この淡々とした描写がじつに効果的。登場人物の生死に関わる重大な出来事が、次々と平気な顔をして画面に登場する。“選別”の恐怖や、ドイツ人たちのユダヤ人に対する非人間的な振る舞い、迫害者の手先になって同胞を売るユダヤ人たちの存在も描かれている。冷酷なドイツ人将校に幼い子供がいることをさりげなく描写することで、人間が人間を良心の呵責なしに殺す異常さが際立ってくる。僕は映画の最初から最後までドキドキしっぱなし。物語の舞台が第二次大戦下のポーランドだということだけはわかるが、その具体的な場所や日時は不詳なので、主人公の苦難がいつまで続くのか、出口がさっぱり見えてこない息苦しさがある。登場するエピソードのひとつひとつにまったく無駄がない緻密な構成。ホロコーストを扱った最近の映画の中でも、きわめて完成度の高い映画だと思う。

 青白い顔をした主人公アレックスは、愛らしく魅力的な子供というわけでは決してない。しかし彼がサバイバル生活の中で少しずつたくましく成長して行くにつれ、観客はどうしたって彼の生き抜こうとする力に肩入れし、心の中で声援を送ってしまうのだ。

 とてもいい映画なのだが、『マイ・リトル・ガーデン』という邦題には文句がある。映画を観る前も観た後も、この邦題が映画の内容にぴったり合ったものだとはとても思えない。僕はタイトルだけ見て『秘密の花園』みたいな映画かと思いました。

(原題:The Island on Bird Street)


ホームページ
ホームページへ