はつ恋

1999/11/22 東映第1試写室
母親が24年前に書いたラブレターを届けようとする少女。
主演は田中麗奈。話の前提が理解不能。by K. Hattori


 『がんばっていきまっしょい』の田中麗奈主演映画だが、ジャンル分けにはちょっと迷う。24年前に母親が出しそびれたラブレターを偶然見つけた女子高生が、手紙の宛先になっている男性を探して、24年ぶりの再会をお膳立てしようとする物語。これはラブ・ストーリーではないし、ホーム・ドラマでもないし、ましてやコメディでもないのだ。こういうのは、映画評で衣食しているライター泣かせだなぁ。「○○みたいな映画」と一言で言えないのは辛い。監督は『月とキャベツ』『洗濯機は俺にまかせろ!』の篠原哲雄。出演は田中麗奈の他に、母親役で原田美枝子、父親役で平田満、母親のかつての恋人役に真田広之といった顔ぶれ。

 古いオルゴールの中から母の手紙を見つけた主人公が、なぜそれを母の昔の恋人に届けようとしたのか? その理由が釈然としないのが、この映画の欠点だろう。理由はいくつか映画の中で説明されているのだが、説明を受けることと、それに納得することは違う。僕はこの映画の説明に納得できないので、映画を観ていても「なんでそこまでやるんだ?」という疑問をぬぐいきれないのだ。彼女は好きな先輩に気持ちを伝えることができなかった。だから同じように気持ちを伝えそびれた若い日の母親に、極度に感情移入している面があるのだろう。彼女はまた、風采のあがらない父親を、嫌悪とまでは言わないが少し小馬鹿にしている面がある。それが、実ることのなかった母親の若い恋を美化させてしまう。さらに、恋に対する幼い思いこみが、ロマンチックな幻想を後押ししている点も見過ごせない。しかしそれらをすべて合わせても、やはり「なぜだ?」と思ってしまうのです。

 彼女は母親と昔の恋人を再会させて、そこにどんな事態が起こることを期待しているのだろうか。それがまったく見えてこないから、観ている方は戸惑うのだ。今さら母と昔の恋人がよりを戻すことなど考えられないし、よりを戻されて一番困るのは主人公自身だろう。24年前の恋人に再会して、母親は本当に嬉しく思うのだろうか。僕にはそれが、よくわからなかった。

 大前提となる「なぜ?」さえ忘れてしまえば、この映画はなかなか面白い。何よりも田中麗奈の表情がいいし、周囲をベテランの俳優で取り囲んで主人公をもり立てる構成も悪くないと思う。原田美枝子も平田満もいい夫婦を演じているし、タクシーの運転主役で登場する佐藤允の存在感も素晴らしい。真田広之は格好良すぎてグウタラ生活をしている様子に実感がないが、後半のパリッとした姿は様になっている。何度も登場する満開の桜が、映画にしっとりとした情感を与えているとも思う。しかしそうした映画の美点も、しばしば頭に浮かぶ「なぜだ?」という疑問の前で艶消しになってしまう。

 どんな力走を見せても、スタートがフライングではその走りに何の意味もないのです。物語を作るときは、まずきちんとしたスタートを切ってほしい。スタートさえよければ、あとは何とかなるものです。


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