ガラスの脳

1999/11/15 メディアボックス試写室
手塚治虫の短編マンガを『リング』の中田秀夫監督が映画化。
泣いてる人もいましたが、僕はつまらなかった。by K. Hattori


 『リング』『リング2』の中田秀夫監督が、手塚治虫の同名短編マンガを映画化した青春メロドラマ。物語の中の“現在”を原作発表とほぼ同じ1970年代に設定しているため、全体にノスタルジックな雰囲気が漂う作品になっている。主人公たちは高校生だが、セックスの介在しないプラトニックな純愛を描くには、やはり過去を舞台にした方がいいのかな。それとも単に、原作に対する敬意の問題なのだろうか。主演はジャニーズJr.の小原裕貴と、CMモデルとして活躍中の後藤理沙。傑作ホラー『リング』の監督が前々から撮りたいと熱望していた純愛ドラマではあるのだが、映画のデキはあまりよいとは思えないなぁ……。正直言ってつまらない。

 物語そのものは悪くないと思う。人物は位置も悪くないし、台詞にとんちんかんな部分もない。特に優れているとも思わないが、シナリオには重大な欠点がないように思われる。だとすれば、やはり問題は演出や芝居ということになるのだろうか。シナリオは用意周到に張り巡らされた水路のようなものだ。水路がどんなによくできていても、そこに実際に水を流さなければ水路は用をなさない。水路を壊さないように、いかに大量の水を勢いよく流すかが映画監督の腕の見せ所だ。ところがこの映画では、水路にほんのチョッピリしか水が流れていない。水の勢いがないので、本来なら流れていくはずの水路に水が回らなかったり、水が干上がって水路の底が見えたりしてしまう。作り手がどこに水を流そうとしているのかはわかるのだが、肝心の水が見あたらない。

 この映画の1番の欠点は、主演ふたりに魅力がないことです。少なくとも僕は彼らに魅力を感じることができなかった。芝居の経験が浅くて、演技がぶっきらぼうになるのは構わない。この映画の場合は、幼い高校生同士の恋愛がモチーフですから、映画に魅力さえあれば、演技のぎこちなさがかえって初々しさというプラスに転じることだって考えられる。例えば鹿島監督の『いちご同盟』を観よ。残念ながら『ガラスの脳』ではそうした効果が生まれていない。下手な芝居は、ただ単に下手な芝居にしか見えないのです。脇の俳優たちが、主人公たちをうまくサポートし切れていないのかもしれない。モロ師岡と河合美智子はそもそもキャスティングが間違っているような気がするし、榎木孝明も芝居に厚みがもう少し欲しかった。これは役の解釈の問題でしょう。

 この映画の2番目の大きな欠点は、時代考証の不徹底かもしれません。僕はこの映画の中から、'70年代の空気を感じられなかった。小道具や美術はがんばっていますが、例えば俳優たちのヘアスタイルやメガネの形、テレビカメラやマイクのサイズが、どうしようもなく現代で白けます。'70年代には、男性アナウンサーは全員が七三分けでしたよ。カラーのワイシャツも、あまり大っぴらにはなっていなかったように思います。こうした風俗は、その時代の映画やTVドラマを観ればわかるはずなのに、なぜ参考にしなかったんでしょう。


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