ダークネス&ライト
(公開題:最愛の夏)

1999/11/03 ル・シネマ2
(第12回東京国際映画祭)
全盲の両親を持つ少女と少年やくざの淡い恋の顛末。
説明が少なすぎて物語に入って行けない。by K. Hattori


 全盲の両親と知的障害を持つ弟を持つ少女が、やくざの少年と交流を持つというお話。ストーリーの流れはありますが、エピソードは断片的に描かれていて、ドラマとしての盛り上がりはまったくない。登場人物の誰がどこで傷つき命を落とそうと、それが主人公の心にどんな波紋を投げかけたのかはうかがい知ることができない。感情の起伏を完全に殺ぎ落としてしまった映画ですが、ドライなタッチというわけでもないし、ハードボイルド風でもない。あえて言えば、ナレーションによる説明が欠落したドキュメンタリー番組みたいな雰囲気。

 登場人物の関係や、映画に描かれていない省略されたエピソードについて、もう少しきめ細かな説明があれば、観客は物語に入り込みやすいと思うんだけど……。この映画は観客に向かって手招きしたり、優しく手を取って引っ張るということをしない。物語があって、それをカメラが淡々と写して、「これでどうだ」と言っている。これはこれで、ひとつの映画演出だとは思うけど、やはり説明不足は説明不足です。観客がこの映画を理解するのは、持っている想像力を総動員しなければならない。観客が元気なときはそれでもいいんですが、僕はこの日、直前に『アーベントランド/さすらい』を観て、疲労困憊していたのだ。映画との不幸な出会いです。

 映画を観ていて一番戸惑ったのは、主人公の家族関係がよくわからないこと。父親と母親は再婚で、主人公と母親に血のつながりはない。だから映画の中では、父と娘の関係が特に強調されることになる。ところで、主人公と弟は血がつながっているんだろうか。家の中にいる老人は、主人公の祖父なのか? 共同生活をしているようにも見える盲目のマッサージ師たちは、主人公の家族とどんな関係にあるのか。僕は最後まで、主人公の母親(義母)がどの人なんだか、映画を観ていてもさっぱりわからなかった。部屋の中で大勢が食卓を囲んでいても、誰が誰とどんな関係にあるのかわからないので、非常に不安な気持ちになってしまうのだ。映画祭のパンフレットには、主人公のカンイは夏休みを実家で過ごす大学生だと書いてあるんだけど、映画を観る限りでは高校生ぐらいにも思える。近所の少年たちととっくみあいのケンカをするような場面もあるし……。これで本当に大学生なんでしょうか。単に童顔なのか?

 映画の中でこうした物語の背景を説明するのが、映画作りの定石です。しかしこの映画では、その定石をあえて削り取ってしまう。映画に必要不可欠と思われる説明をすべて削ぎ落として、残ったエピソードの断片だけで映画全体を語ろうとしている。こうした説明の排除は、日本映画『萌の朱雀』などにも見られたものですが、『ダークネス&ライト』の寡黙さに比べたら『萌の朱雀』はまだ饒舌に感じられます。「沈黙は金」という言葉があります。この格言は映画にも通用します。しかし沈黙を金とする力がない人は、「雄弁は銀」という言葉を思い出して、きちんと物語を語るべきだと思います。

(原題:黒暗之光)


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