破線のマリス

1999/10/31 オーチャードホール
(第12回東京国際映画祭)
テレビ局の編集ウーマンが仕掛けられた巧妙な罠とその結末とは?
野沢尚の同名小説を黒木瞳主演で映画化。。by K. Hattori


 脚本家・野沢尚の江戸川乱歩賞受賞小説が原作。テレビ局で編集の仕事をしている遠藤瑤子は、ニュース番組「ナイン・トゥ・テン」の中で「事件検証」という看板コーナーを受け持っている。膨大な取材テープを編集し、独自の視点で事件の核心に切り込むスタイルは、批判も多いが視聴者の関心も高い。そんな瑤子のもとに、郵政省の役人だという男が匿名を条件に1本のビデオテープを持ち込んでくる。そこには少し前に起きた弁護士事件に関する、恐るべき証拠が映っているというのだ。瑤子はこのテープをもとに、「事件検証」で弁護士殺人事件を取り上げる。中央官庁の役人が殺人事件の犯人だと名指しした番組は大反響を呼ぶが、名指しされた本人や役所は寝耳に水。再調査の結果、持ち込まれたテープそのものが捏造されたものだとわかるのだが……。

 監督はデビュー作『[Focus]』でテレビ局の暴走する取材をテーマにした井坂聡。今回は現場で取材したテープを放送前に「編集」することで、どのような「事実」でも恣意的に作り出せてしまう恐さを描いている。主人公の遠藤瑤子を演じるのは『失楽園』の黒木瞳。番組で名指しされ、人生を破滅させられる男・麻生を演じるのは陣内孝則。瑤子の部下・赤松を、加山雄三の次男・山下徹大が演じている。この映画は脚本だけ取ればほぼ完璧。このまま英訳してハリウッドに売り込めば、そのまま向こうで映画が作れそうなほどです。テレビ局といういかにも現代的な場所を舞台にしながら、その内部で行われている「ビデオの編集」という日常業務の問題点をあぶり出して行く。このテーマは『ブロードキャスト・ニュース』という映画でも取り上げられていましたが、今回の『視線のマリス』には『ブロードキャスト・ニュース』からの引用があって、「やっぱり意識しているんだなぁ」と思わせてくれました。

 脚本はほぼパーフェクトだと思いますが、問題点が大きく2点ある。ひとつは陣内孝則演じる麻生という男に、邪悪さや狂気の匂いが少しもしないこと。陣内孝則は基本的に陽性で楽天的な男らしく、この映画にもそうした彼の持ち味が常に漂ってしまうのです。人間は追い詰められれば他人に対して冷淡になる。場合によっては、他人の不幸を喜ぶようにな底意地の悪さを見せることもある。それは明確な敵意や殺意といったほど大げさでなくても、明白な「悪意」の現れだ。ところが陣内孝則の芝居からは、そうした悪意が見えてこない。陣内孝則は「いい人」すぎるのです。これでは話が進まない。

 第2の問題点は、せっかくハードな雰囲気で進んできた映画が、最後の最後に安っぽいメロドラマになってしまうこと。ここは音楽の付け方もひどいなぁ。それに子供の出し方にも問題がある。最後に子供を出すのなら、その前の場面でも子供を出して観客に姿や顔を印象づけておくべきだと思う。写真で見せただけでは、観客は瞬時に「あの子だ」と見抜くことは出来ない。この映画でもそこを心配して台詞で説明してしまった。ひどい。

(英題:The Frame)


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