映画
サラリーマン金太郎

1999/10/29 東宝第1試写室
本宮ひろ志原作の人気TVドラマが映画化されてスケールアップ。
どうにも煮え切らない映画だ。監督は三池崇史。by K. Hattori


 原作は本宮ひろ志の同名コミック。元暴走族の総長・矢島金太郎が中堅ゼネコンのヤマト建設に就職し、持ち前の男気で周囲を感化しながら社の内外で注目される人物に成長して行く物語だ。今年1月から高橋克典主演のTVドラマが放送され、秋にはスペシャル版も放送。今回の映画化ではTVと同じ顔ぶれを揃え、監督には売れっ子の三池崇史を連れてきた。製作側としては『踊る大捜査線 THE MOVIE』のセンを狙っているのでしょうが、これで成功するかなぁ。僕は『踊る大捜査線』も『サラリーマン金太郎』もTV版は観ていませんが、それでも『踊る大捜査線 THE MOVIE』は面白かったもんね。今回の『金太郎』は、その点でもうひとつかな。三池崇史云々以前に、これは脚本が中途半端でした。

 東北営業所に赴任した金太郎が公共事業の入札で大手の北東総建と対立し、さまざまな妨害を受けてついには堪忍袋の緒が切れるというお話。最初は仕事として筋を通していた金太郎も、白紙入札やヤクザを使った暴力的強迫、さらには爆弾小包まで送り付けられるにいたって、ついに敵の本拠地になぐり込み。要するにこれは、昔の任侠映画と同じパターンです。主人公は女にモテモテなのに、死んだ女房と幼い息子が気になるのか、ちっとも女を相手にしようとしない。郷に入れば郷に従えという適応性は持っているが、曲がったことは大嫌いで自分の決めたスジを貫き通す。ライバルには闘志をむき出しにするが、一度相手を認めれば友情を大切にする。強きをくじき、弱きを助ける侠気の持ち主。彼を慕って命を投げ出してもいいとさえ考える仲間たち。自分がどれだけ傷つけられても我慢するが、自分の周囲の弱い者に手が伸びれば毅然として立ち上がる……。これだけの要素が詰まっているのだから、全体を徹底して任侠映画と同じパターンにしてしまったほうがよかった。そうすれば物語全体に背骨が出来たはずなのですが、この映画はそうならず、全部がエピソードの寄せ集めになっている。

 この脚本は細部もかなりいい加減。ヤマト建設の東京本社と東北営業所の地理関係が、まったく不明確になっている。移動には新幹線を使って、金太郎は東京から遠距離通勤しているというのですが……。平時はともかく、いろんなトラブルが起きているのに営業所付近に宿を取らないのは不自然です。この映画では、本社と営業所の距離が東京横浜間ぐらいにしか感じられない。今回は主人公がくせ者所長のいる東北営業所に武者修行に出る話なのに、毎日東京に戻って旧知の顔を眺めていたのでは、物語から武者修行の匂いがしないではないか。

 人気TVドラマの映画化ということもあり、TV版のレギュラー陣が少しずつ顔を見せる仕掛けになっているらしい。それが物語の贅肉になっているのだ。最初にパーティーの場面があるのだから、そこで顔見せは済ませて、あとはオリジナル路線だと割り切った方がよかったと思うんだけどなぁ……。こんな話なら、TVのスペシャル版で構わないんじゃないだろうか。


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