サスペリアPART2
完全版

1999/08/12 シネカノン試写室
『サスペリア』とは直接関係のない犯罪ミステリー映画。
猟奇殺人とラブコメの組み合わせが楽しい。by K. Hattori


 1977年の大ヒット作『サスペリア』に便乗して公開された映画だが、じつは『サスペリア』より2年も前の作品で、内容的にもつながりは全くない映画。劇場公開版は1時間46分だが、今回公開されるのは2時間3分の完全版。LDでは発売されていたものなので、マニアなら持っているんでしょうね。

 殺人事件を偶然目撃したジャズ・ピアニストが、事件を取材する女性記者と連続殺人の核心へと迫って行く物語。残酷で陰惨な猟奇殺人の描写に、主人公たちの恋愛話をラブコメ調にからめる構成が見事。それでいながら、観客に「記者が怪しい!」「だまされるな!」と思わせる作劇上のテクニックも素晴らしい。反則にならないスレスレで、巧妙に観客の予想をミスリードして行くのだ。オープニングの殺人シーンから最後の種明かしまで、ミステリー映画としても一級品。仰角や俯瞰、一人称のカメラアイなど、カメラアングルを奔放に移動させているが、それがうるさく感じられないのは、カメラの動きや位置にある種の必然性があるからでしょう。

 オープニングの殺しの場面で、壁に映る人影が殺人シーンを演じるのを床スレスレの低いアングルで撮影し、次の瞬間にはカメラの目の前に血まみれのナイフが転がるショック。カメラから一番遠い壁という、離れた位置で演じられていた殺人が、じつはカメラのすぐ横で演じられていたという衝撃です。主人公の男が夜の広場で悲鳴を聞き、最初はビックリするが、やがて忘れてしまう。その次の瞬間、ふと見上げた窓で殺人が行われているというのも衝撃的でした。人間の心理にじわじわとプレッシャーを与え、それを少し緩めてこちらが安心したところで、ずかりと核心に踏み込んで行くタイミングの上手さ。この映画の殺し場面を、単なるショック描写だと思ったら大間違い。この間合いや呼吸の計り方こそ、まさに映画演出というものなのです。

 連続殺人の発端は、超心理学の講演に招かれたテレパシストが、たまたま会場内にいた殺人犯の意識をキャッチしてしまったことにある。超心理学とうオカルトめいた素材が出てくるのは、世界的な大ヒット作『エクソシスト』の影響。しかしこれはサイコ殺人という映画のメイン・モチーフと、あまりにもかけ離れた異質なものだと思う。この映画の中でもっとも笑えるのは、このテレパシストが犯人の陰におびえて大げさに驚いたり悲鳴を上げる場面だ。口に含んだ水をそのまま吐き出してしまう場面を観て、僕は思わず吹き出してしまった。

 主人公がジャズ・ピアニストであるという設定が、まったく生かされていないのが気になる。ヒロインが新聞記者である理由は何となくわかるけど、主人公がジャズ・ピアニストである必然はどこにあるのだろうか。犯人が小型テープで音楽を流すという仕掛けが、主人公を音楽家にしたことと関係あるのかと思ったんだけど、これも監督一流のミスリードのひとつなのかな。最後はビシッと決めたジャズ演奏で終えてほしかった。

(原題:Profondo Rosso)


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