ボクサー
最後の挑戦

1999/08/08 サンプルビデオ
ジャン・レノ扮する元ボクサーと、三流詐欺師の人生探し珍道中。
この話なら、もっと面白くなっただろうに。by K. Hattori


 中年ボクサーのパトリック(ジャン・レノ)は、負け続けの拳闘生活にピリオドを打って引退を決意。移動ピザ屋を経営する従兄弟がバカンスに出かける間、店を引き継ぐことから新生活をスタートさせようとする。無一文で部屋を追い出されたパトリックは、バーで三流詐欺師のナタニエル(クリスチャン・シャムタン)と出会う。彼は商売上のいざこざから、早々に町を離れなければならない身の上だった。人生の負け犬同士としてすっかり意気投合したふたりは、北フランスのルーベから南仏のナルボンヌまで、一緒に旅をすることになるのだが……。

 共に人生の敗残者として町を逃げ出した男たちが、たまたま同じ車に乗り合わせて旅をするロード・ムービー。ロード・ムービーは一度物語が動き始めてしまうと、強力無比なのだが、この映画では最初の滑り出しが少し弱い。ふたりがそれぞれ町を逃げだして行く事情はわかるのだが、ふたりが一緒に旅を続けなければならない理由が弱いような気がする。「馬が合う」とか「意気投合した」というだけでは、女たらしのロートル・ボクサーと、ケチな三流詐欺師でコソ泥の男が一緒に旅を続けるわけには行かないと思う。互いが互いの欠けている部分を補い合うとか、互いが相手に対して負い目を持っているとか、ふたりがコンビであることの必然性がほしい。

 共に負け犬だったふたりが、旅を通じて自信を取り戻し、新しい人生の目標を見つけるという話だが、その過程にもう少し工夫が欲しい。両者が同じように負け犬の立場からスタートしても、ふたりのうち必ずどちらかが相手より優位に立ち、相棒が落ち込んだ時には励まし、何か行動を起こすときに後押しする、そんな関係が見たいのだ。そんな意味では、この映画でもっともドラマチックなポイントは、ナタニエルが初めて女性に惚れ、それをパトリックが後押ししてやるエピソードだろう。ここではパトリックがナタニエルに女性との駆け引きを指南しながら、彼自身も見失っていた本当の愛を取り戻していく。その結果、彼は自分が失っていたものの大きさを再確認し、ひどく落ち込むことになるのだ。

 見ず知らずの他人同士だったふたりは、旅の中で友情を深め、同時に自分たち自身の姿をも見つめ直すことになる。つまりこれは、ロード・ムービーであると同時に、バディ・ムービーでもあるのだ。しかしこの映画には、バディ・ムービーの定番である仲違いと仲直りのエピソードがない。ふたりは最初から妙に仲が良くて、互いの欠点に目をつぶり、いつも相手を許してしまう。主人公同士にはもっと対立があった方がいい。対立を通して互いの見えなかった面が見えてきたり、自分自身を見つめ直したりできるはずなんだ。

 映画の原題は「トリュフ」という意味。日常の中に埋まっている小さな幸福を、高価なトリュフになぞらえているのでしょう。途中で子豚が登場するのは、トリュフを捜しにブタを使うからでしょうが、生憎このブタは物語の中であまり活躍しません。扱いが中途半端です。

(原題:LES TRUFFES)


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