バッファロー '66

1999/07/15 シネクイント
ダメ男の前に現れたとびきりの天使が彼の人生を変える?。
ヴィンセント・ギャロの監督デビュー作。by K. Hattori


 完成披露試写でも1度観ているのだが、仕事の都合もあって再度劇場で鑑賞。渋谷にできた新しい映画館シネクイントのこけら落とし作品ですが、劇場には長蛇の列。配給会社の人から「早めに行かないと立ち見になりますよ」と警告されていたこともあり、30分ほど前に行ったので座れましたが……。ちなみに僕が観たのは午後2時からの回。午後4時半からの回はもっと混んでいる様子でした。あとから配給の人に聞くと、朝1番の回とレイトショー以外はすべて立ち見が出ているとか。すごい。なんでこの映画が、こんなにウケているのだろうか。

 中堅俳優として活躍しているヴィンセント・ギャロが、監督・脚本・音楽・主演をした映画です。ギャロはこの作品で監督デビュー。刑務所から5年ぶりに出てきた主人公ビリーが、両親に結婚したと見栄を張るため発作的に誘拐したレイラ。「俺の言うことをきかないと二度と口をきかないぞ。もし俺のいうことを聞くならお前の親友になってやる!」と彼女に向かって奇妙な強迫をしたビリーは一路家に。さんざん意気込んで家に行ったのに、両親は特別驚きもしなければ、嬉しそうでもない。ビリーは家を出て、自分が刑務所に入るきっかけになったフットボール選手を殺そうとするのだが……。

 主人公ビリーのダメ男ぶりは徹底しているのだが、そのダメさの裏側にある優しさや素朴さが、時々チラリと顔をのぞかせるところがあって憎めない。彼は自分のダメダメぶりを人に悟られないようにしようと、乱暴な口をきいて突っ張って生きている。でも見る人が見れば、彼の気の弱さはすぐに見抜かれてしまう。ノミ屋のブッキーもビリーの性格を見抜いていたからこそ、チャチな脅し文句で彼を意のままにできたのだろう。そして誘拐されたレイラも、出会った直後からビリーの弱さ、優しさ、繊細さなどを見抜いてしまったに違いない。ビリーのダメダメ男ぶりを知りながら、そんな彼を無条件で愛してくれるレイラ。でもビリーは、そんな彼女の大切さになかなか気付かない。映画を観ているこちらは、「もっと彼女に優しくしてやれよ」と思うんだけど、じつは彼には、女性に優しくできない理由があったのです。

 序盤から中盤までの弛緩した空気が徐々に引き締まり、最後の10数分はかなりテンションが上がってくる。最後の最後に、それまでの悲観的な雰囲気が逆転し、思いがけずにハッピーエンドがやってくる。このどんでん返しは、下手なミステリー映画よりよほど痛快だ。人間はつまらないことにこだわると、目の前にある幸福に気付かないというのが、この映画の教訓だろうか。

 この映画でレイラを演じたクリスティーナ・リッチは、『トゥルー・ロマンス』や『エド・ウッド』のパトリシア・アークエットに匹敵するオタク男の女神だ。(『I love ペッカー』もあるぞ!)アンジェリカ・ヒューストン、ベン・ギャザラ、ロザンナ・アークエット、ミッキー・ローク、ジャン=マイケル・ヴィンセントなど、脇役の豪華さには映画マニアも唸るに違いない。

(原題:BUFFALO '66)


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