ビッグ・ヒート
復讐は俺にまかせろ

1999/07/14 シネカノン試写室
『L. A. コンフィデンシャル』もきっとお手本にしたであろう警察ドラマ。
主人公の孤独な戦いをじっくりと描いた傑作。by K. Hattori


 フリッツ・ラングが1953年に監督した、ハードボイルド・タッチの警察ドラマ。警察の腐敗をテーマにしている点や、ひとりの警官の死が物語の発端になっている点は、『L. A. コンフィデンシャル』を彷彿とさせる。しかしこの映画の方が、それよりもはるかに簡潔で力強い。この簡潔さと力強さは、ひとりの主人公が事件を追う様子をひたすら追う単線構成によるもの。複数の主人公を併走させる『L. A. コンフィデンシャル』とは単純に比較できないのだが、誰が観てもわかりやすくて面白いという点では、フリッツ・ラングの古風なスタイルに軍配が上がるかもしれない。

 豪勢な書斎でひとりの男がピストル自殺するのが、この物語の発端。だがそれを発見した彼の妻は眉ひとつ動かさず、遺体のそばにあった遺書を見つけて地元のギャングに電話をかける。自殺したのはトム・ダンカンという記録課の巡査。翌日現場検証に訪れた警官たちに、ダンカンの妻は「遺書はなかった」と証言。健康状態を気にやんでの自殺だろうと語る。だが事件を捜査していたバニオン刑事は、死んだダンカンの愛人だったという女から連絡を受け、ダンカンに健康上の問題がなかったこと、夫婦関係が冷え切っていたこと、安月給の巡査にも関わらず、湖畔に別荘を持っていたことなどを聞き出した。バニオンはその件でダンカン夫人を問いつめた直後、重要な証言者だったダンカンの愛人が殺され、警察内部でもバニオンは露骨な捜査妨害を受けるようになる……。

 エピソードの構成にまったく無駄がない、全盛期ハリウッドの名人芸。1時間30分の上映時間で、今の映画が2時間15分ぐらいかける内容をスッキリ処理している。例えば、死んだダンカンの豪華な暮らしぶりと、主人公バニオンの慎ましやかな暮らしぶりを対比させることで、ダンカンが汚職によってどれだけ甘い汁を吸ってきたかが一目でわかる。夫の遺体を見つけたダンカン夫人の表情と、挑発的な電話での口調から、彼女の人間的な冷たさと強欲さが見える。政界や警察上層部まで牛耳るギャングの親玉ラガーナがゲイであり、表向きは娘のいるよき家庭人であるという設定も、この人物の二面性を強調する効果を生みだしている。

 人物関係がきれいに無駄なく配置されているため、ストーリーが少しずつ先読みできてしまう部分もある。例えば、バニオンとラガーナの腹心ヴィンスの関係は、バニオンの妻とヴィンスの愛人の存在もあって対称性が強化され、最後の対決が必然的に導き出される仕掛けになっている。煮えたぎったコーヒーをめぐる、ヴィンスと愛人の関係も似たようなものだし、愛人の悲しい末路も、バニオンの妻との対比で避けがたいものになる。しかしこうした対称性があるからこそ、ヴィンスの愛人に向かってバニオンが妻の話をするラストシーンが感動を呼ぶ。

 話に関係ないけど、ヴィンスの愛人デビーを演じたグロリア・グレアムが、アン・ヘッシュに似ている。アン・ヘッシュというのは、古風な顔立ちだったんですね。

(原題:THE BIG HEAT)


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