皆月

1999/07/07 シネカノン試写室
女房に逃げられた中年男とソープ嬢の恋に感激してしまった。
花村萬月の原作を望月六郎が映画化。by K. Hattori


 花村萬月の同名原作を、『身も心も』『絆』の荒井晴彦が脚色し、『鬼火』の望月六郎が監督したアウトロー・ドラマ。これは久々に骨のある映画だった。傑作『鬼火』を越えてはいないと思うが、それに肉薄する作品だ。どん底に落ちた男と女のドロドロした関係が、もつれ合い、のたうち回りながら、最後に軽いカタルシスを伴ったハッピーエンドに落ち着くあたりは、思いがけず感動して涙ぐみそうになってしまった。望月監督はダメな男とダメな女が寄り添いながら生きていく様子を、じつに巧みに描く監督です。『鬼火』もそうだったし、最近の『極道懺悔録』もそうだった。最低の場所に落ちた男と女が、互いに相手を見つめながら、男として、女として生きていこうと決意するカッコウよさ。

 奥田瑛二扮する中年サラリーマン諏訪は、ある日突然女房に逃げられる。女房が残したのは「みんな月でした。がまんの限界です。さようなら」とだけ書いた置き手紙。いつか家を買おうとため込んだ貯金も、彼女が持って行ってしまった。諏訪はショックでふぬけ状態。女房の弟でヤクザをしているアキラは、そんな義兄に同情してか何かと世話を焼き、石部金吉だった諏訪に高級クラブで飲ませたりソープに連れていったりする。すっかり働く気をなくしてしまった諏訪は退職金で細々と食っていこうと考えるが、間の悪いことに諏訪の会社は倒産してしまう。女房に逃げられ、会社も潰れ、無一文になったつまらない中年男。ところがそんな諏訪に、ソープ嬢の由美が惚れてしまう。ふたりは一緒に暮らすようになるが、やがて逃げた妻の所在がわかって、諏訪はアキラや由美と一緒に最後の決着をつけることになる……。

 奥田瑛二も素晴らしいのだが、今回はむしろアキラを演じた北村一輝が惚れ惚れするような名演技。独断と偏見で選ぶ、今年の日本映画助演男優賞は彼で決定です。彼は主演映画『日本黒社会 LEY LINES』があったばかりだけど、今回の映画の方が断然いい。ゲイのホームレス、田舎町のチンピラ、小心なヤクザ、神経質な学生など、エキセントリックな役柄の多い俳優なんですが、今回は義兄にあれこれと世話を焼く義弟という役どころ。「俺なんか1時間ごとにがまんの限界だよ」とぼやく彼が、突き上げてくる暴力衝動をあらわにする迫力。そして、ラストシーンで見せる切ない表情。日本のインディーズ映画で今もっとも注目すべき男優は北村一輝だということを、誰もが納得するであろうお芝居でした。

 ソープ嬢の由美を演じた吉本多香美も好印象。濡れ場もエッチでよろしい。「私はお日様なんかじゃないよ。お月様なんかじゃないよ。私はただのヤリマン女なんだよ〜!」と絶叫するラストシーンには涙ポロだ。好きな男のために少しポーズを付けていた女が、最後の最後に開き直ってすべてをさらけ出す場面。この場面を観て、「ちくしょう、いい女じゃねえか!」と思わないやつは男じゃない。甘っちょろいラストシーンかもしれないが、僕はこのラストに感動してしまったよ。


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