シンプル・プラン

1999/06/24 東宝東和試写室
スコット・スミスのベストセラー小説をサム・ライミ監督が映画化。
なぜこの映画をサム・ライミが撮るんだろう? by K. Hattori


 1994年に発表されたベストセラー小説「シンプル・プラン」を、原作者のスコット・スミス自らが映画用に脚色し、『ダークマン』『キャプテン・スーパーマーケット』のサム・ライミが監督したミステリー・ドラマ。荒唐無稽なアクション描写に定評のあるライミ監督作は最近テレビの仕事が多かったのだが、今回の映画は今までのアクション指向からまるで方向を変えた、正攻法の人間ドラマになっている。ライミ監督のファンとしては、この路線変化に戸惑ってしまった。しかもこうした端正な表現が監督の中で消化不良を起こしておらず、まともに仕上がっていることにも驚く。

 ライミ監督の盟友コーエン兄弟が『ファーゴ』でアカデミー賞を取ったことで、「俺だってあの程度の映画は撮れるわい」と対抗意識を燃やしたんだろうか……。でも『ファーゴ』にあったグロテスクな雰囲気は紛れもなくコーエン兄弟の持ち味を感じさせたけど、『シンプル・プラン』にはサム・ライミらしさなんて微塵もないんだよね。確かに上手い映画だとは思うんだけど、こんな映画なら別の監督に任せればいいとも思う。よりによってサム・ライミともあろう者が、こんな映画を撮る必要はないではないか……、というのがファンの気持ち。

 お話は単純。名物も産業もないアメリカ片田舎の小さな町が舞台だ。飼料店で働くハンクは、妻サラが間もなく待望の子供を出産することを楽しみにしている平凡な男だった。年の瀬に近いある日、ハンクは失業中の兄ジェイコブとその旧友で同じく失業中のルーと一緒に、森の中に墜落している飛行機を見つける。パイロットは死亡。荷物は440万ドルの現金だ。きっとこれは犯罪がらみの金に違いない。3人は金を山分けすることに決める。まずは金を隠し、様子を見ることだ。飛行機が発見された時、もし誰かが金を探しているようだったら、その時は金を全部燃やして知らん顔をしていればいい。もし誰も金を探していなければ、その時は金を3等分して全員が町を離れよう。それは単純な計画に思えた……。

 突然目の前に現れた多額の現金。まともに働いていては一生手に入らない金が、黙っていれば自分の物になる。そう考えた瞬間、人間の性格は豹変してしまう。このアイデアは、矢口史靖監督の『アドレナリンドライブ』と同じだ。ひょっとしたら矢口監督は、この映画の原作「シンプル・プラン」を読んでいたのかもしれない。一方はシリアスな人間ドラマ、一方はコメディになるわけだが、金が人間を変えるというテーマは同じだし、金をめぐる狂奔状態を通して、人間の根元的な愚かさや滑稽さを描こうとするのも同じだ。サム・ライミの本来の持ち味から言うと、『アドレナリンドライブ』こそ彼が映画化しなければならない作品という気もするけど……。

 主人公ハンクの兄ジェイコブを演じたビリー・ボブ・ソーントンがすごく上手い。人間の弱さや愚かしさが、金によってむき出しになるリアルな恐さ。しかしこの役者、映画によってまるで違う顔を見せますね。

(原題:A Simple Plan)


ホームページ
ホームページへ