黒猫・白猫

1999/06/23 東宝第1試写室
『アンダーグラウンド』のエミール・クストリッツァ監督最新作。
ジプシーの結婚騒動を描いたコメディ映画だ。by K. Hattori


 『アンダーグラウンド』でカンヌ映画祭のパルムドールを受賞した後、引退を宣言していたエミール・クストリッツァ監督の最新作。ジプシーたちを主人公にした、家族愛と結婚にまつわるコメディーだ。2時間10分の大作だが、前半1時間はかなり寝てしまったので、今回の論評は後半1時間部分に限定する。映画は後日また改めて観るつもり。決してつまらない映画ではないのだが、連日の疲れがどういうわけか一度に出て、ウトウト……。先々週のフランス映画祭からの疲れが、まだ完全に抜けきっていない感じでもある。梅雨空と晴れ間で寒暖の差が激しいのも、疲れの原因なんだよなぁ……。(と、今回は映画について書くことが少ないので、日記風の文章で埋め草的なグチを書き連ねるのであった……。)

 映画の終盤は盛大な結婚式。ところが結婚する当人たちは、この結婚にまったく乗り気でない。新郎は別に恋人がいるし、新婦もこんな結婚がいやなのだ。ふたりの結婚は、互いの親族の強欲さとわがままが招いたもので、新郎新婦はいわば被害者なのだ。新郎新婦がいかにしてこの結婚から逃れ、本来のパートナーと結ばれるかが物語の焦点になる。しかし事態はもつれにもつれ、こじれにこじれ、込み入っていた話はより込み入って、誰にも手が付けられなくなってしまう。

 結婚式の場面ではそれまで映画に登場していたあらゆる人物が一堂に会し、画面の中で折り重なるようにもつれ合いながらドンチャン騒ぎを繰り広げるにぎやかさ。音楽や手拍子で、群衆はどんどん熱くなっていく。機関銃がぶっ放され、手榴弾が爆発する、かなり物騒な結婚式だ。やがて花嫁は結婚式場を脱出することに成功する。

 出演者たちはほとんどが実際のジプシーで、演技経験のある人はごくわずか。彼らは台詞を覚えられず、同じ芝居を何度も繰り返すということができないため、脚本には簡単なシチュエーションだけを書きとめておき、それを現場の即興でふくらませて行く演出法をとったという。詳細な脚本を作っても、どうせその通りには進行しないからだ。結婚式の場面は30分ほどで、中にはびっくりするぐらい多種多様なエピソードが詰め込まれているのだが、脚本ではそれが2ページしかないという。花嫁が逃げる場面は1行だったらしい。おそらく脚本には、基本的な人物の出し入れしか記されていないのだろう。エピソードや台詞は、現場で作り出された物がほとんどだと思う。そんなことをしていたからか、この映画を撮影するには6ヶ月もかかってしまったという。

 ジプシーが登場する映画はいろいろあるが、その多くは外部からの訪問者をジプシー集団の中に入れて、ジプシーとそれ以外の人々とを対比させることが多い。この『黒猫・白猫』の面白さは、ジプシーたちの暮らしぶりをジプシー社会の中から一歩も出ずに描いていることだ。もともとこの映画の企画は、ジプシーの生活を描いたドキュメンタリーから出発したらしい。彼らの生活ぶりが生き生きと描かれているのが印象に残った。

(英題:BLACK CAT, WHITE CAT)


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