ハリケーン・クラブ

1999/06/21 シネカノン試写室
ニューヨークのストリート・キッズを描いた救いのないドラマ。
話は暗いが個々の場面は輝いている。by K. Hattori


 ニューヨークのロア・イーストサイドで、友人たちとたむろしているストリート・キッズの物語。この映画を観てラリー・クラークの『KIDS』をすぐに思い出したが、『KIDS』が子供同士の関係だけで「子供の世界」を描いていたのに対し、この『ハリケーン・クラブ』は子供と大人の関係に物語の半分を割いている。この映画の中では子供たちがどんどんギャング化して行きますが、それはすべて大人の影響です。子供がモデルとすべき分別のある大人が、子供の周囲にはほとんどいなくなっている。子供をとっつかまえて説教をするのは警官だけですが、「デカ」や「ポリ」の説教をまともに聞く子供なんていやしない。警官の仕事は取り締まりであって教育ではないことを、子供たちだって知っているからです。捕まって説教されても、それは「運が悪かった」と思っておしまいになってしまう。

 主人公は間もなく15歳の誕生日を迎えるマーカス。父親は彼が幼い頃に交通事故で死に、母親は密入国を助けた罪で刑務所に入っているため、バーを経営する祖母とふたり暮らしだ。彼の夢は、生まれ故郷のニューメキシコに移り住むこと。誕生日のプレゼントに叔父さんがニューメキシコ行きのチケットを送ってくれることを楽しみにしている。仲間の少年たちと廃墟の隠れ家で一緒に過ごすことの多いマーカスは、万引きやカッパライで小遣い銭を稼いでいる。ところが仲間のひとりチップはマイアミから来た不良たちから悪影響を受けて、「子供っぽいケチな盗みをやめて、もっとでかいことをやろう」と周囲に声をかける。チップは麻薬にも手を出しているらしい。マーカスは15歳の誕生日に、メレーナという14歳の少女に出会って恋に落ちる。

 少年たちが自分たちだけの隠れ家を作り、そこでエロ本を見たり、ゲームをしたり、タバコを吸う様子は、いつの世も変わらぬ少年たちの姿としてほほえましい風景です。しかしそこに、麻薬を持ち込む者がいる。拳銃を持ち込む者がいる……。それによって、その場の雰囲気はガラリと変わってしまいます。万引きやカッパライは悪いことに決まっていますし、それが本格的な盗みにつながって行くこともあるでしょう。何よりいやなのは、遊ぶ金ほしさに盗みをしている少年たちが、金のために仲間内の信頼関係まで傷つけてしまうことです。

 監督はこれがデビュー作になるモーガン・J・フリーマン。同姓同名の黒人俳優とは別人の若い監督です。この映画は'97年のサンダンス映画祭に出品され、監督賞・撮影賞・観客賞を受賞している。観ていて愉快な映画ではありませんが、今いる場所から脱出することで救済されるというエンディングは、スパイク・リーの『クロッカーズ』にも似ています。映画に登場する電車での旅立ちは、いつだって根拠のない希望につながっている。この映画のラストシーンも、先にあるのは小さな希望です。たぶん行く先には別の地獄があるのでしょうが、それでもちっぽけな希望を持って若者は旅立つのです。

(原題:Hurricane Streets)


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