短編映画特集

1999/06/11 パシフィコ横浜
(第7回フランス映画祭横浜'99)
わずか数分の作品から30分弱のショートストーリーまで、
最新フランス映画短編集。どれも面白い。by K. Hattori


 フランス映画祭横浜の裏名物が、この短編映画特集。日頃めったに観ることのできないフランスの傑作短編映画が、まとめて観られる機会なのです。短篇作品はそれがどんなに面白くても、日本の会社が配給権を買うことなどない。上映する場所も機会もなく、ビデオも出せないため、買い付けても宝の持ち腐れになるからです。そんなわけで、短編映画が観られるのはやはり、こうした映画祭の場しかありません。今回は上映された8本の作品について、簡単に紹介したいと思います。

○何も言わずに(RIEN DIRE)10分
 俳優のヴァンサン・ペレーズが初めて監督した作品。本人が来日していれば、これが短編映画特集の目玉になっていただろう。友人の母の死を友人より先に知ってしまった女性が、そのことを打ち明けられないまま時を過ごす物語。カフェでの他愛のないおしゃべりの中で、友人は新しい恋人について幸せいっぱいの笑顔で話す。まさに幸福の絶頂。でもその下には、大きな悲劇が待ち受けている。人生でもっとも幸せな時間から、最大の悲劇へと滑り落ちてゆくラストシーンが見事。

○カミーユ(CAMILLE)8分30秒
 監督はファブリス・ゴベール。父親に連れられて、刑務所に入っている祖父の面会に出かけた少年カミーユ。彼はいまだ、刑務所がどんな場所かを知らない。だが子供は好奇心旺盛で、意外なところで聞き耳を立てているものだ。その夜書かれたカミーユの日記には、祖父と父親についての記述があった……。

○ハエ戦争(MOUCHERIE)3分40秒
監督はドゥニ・ベルナール。食事中に飛び回るハエをたたき潰した女性が、戸棚にへばりついたハエの死骸をはがすのに四苦八苦するという、ちょっとシュールで不気味なコメディ。薄暗くてコントラストの強い映像や、ノイジーなBGMなど、神経症的な描写が観るものの心を逆撫でする。ハエがはがれないという本来のストーリーより、導入部でパンを落としたり、スリッパ片手にハエに近付いてゆく場面の方が面白い。

○ママの贈り物(LE CADEAU DE MAMAN)20分
 母親に誕生日に香水をプレゼントをしようとした少年が、小遣いをかき集め、自分のマンガ本を売り払い、何とか買物に成功する。ところが意地悪な姉がそれを隠してしまう……。お金が足りず、少年が万引きをする場面が最高にスリリング。安易な妥協を許さず、少年が自分の才覚でお金を工面する様子は観ていて気持ちがいい。クスクス笑い、ドキドキし、ホロリとさせる場面もあり、最後はニッコリ。パトリック・アルピヌ監督作品。

○マーズ(MAAZ)8分
 短篇特集の中で、もっとも映像にインパクトがあった作品。廃墟のような無人の町を走り回る、黒いマントの男。彼は自分の影を追い、自分の影に追われながら、やがて舞踏会にまぎれこんで美女と踊る。悪夢のようなイメージは、『デリカテッセン』や『ロスト・チルドレン』のジュネ&キャロに通じるテイスト。町の様子が次々に変貌してゆく様子は『ダーク・シティ』。全編がCGとアニメーションの合成。これはスゴイ。監督のクリスチャン・フォルクマンが主演も兼ねている。

○最後の手段(EN DESESPOIR DE CAUSE)25分
 求職活動中の中年男が、訪問先企業の社長と直談判するためにエレベーターに立てこもる。エレベーターに閉じこめられた3人の人間の関係は煮詰まって行くが、内部の様子は外部もモニターされ、ビル職員や他の従業員たちの共感を呼ぶ。よくできたシチュエーション・コメディ。エレベーターの扉に受付嬢(と呼ぶにはトウがたちすぎか?)のスカートがはさまって身動きがとれなくなるのだが、その行方には場内で拍手喝采。それまで融通のつかない嫌なヤツだった彼女が、この一瞬で可愛い女に変わってしまう。映画本来のオチより、この場面が一番面白かった。監督はヴァンサン・ルーリー。

○最後の発明(DERNIERE INVENTION)8分
 身の回りの品物が人間に反乱を起こすという、ファンタジックなコメディ映画。物語のアイデアそのものは目新しくないが、コマ撮りで全体をクレイメーション(粘土アニメ)のように表現したのがユニーク。生身の人間のライブアクションなのに、映画は『ウォレスとグルミット』のようなチャーミングな世界になっている。監督・脚本・主演はロロ・ザザール。

○ブラインド(BLIND)19分50秒
 監督は小西未来という日本人男性。彼がアメリカの大学に留学して作った映画で、物語の舞台はアメリカ、言葉はすべて英語、出演者もたぶんアメリカ人。この映画がなぜ「フランス映画祭」で上映されているのか謎だったのだが、上映後の質疑応答でも、誰もそのことを質問しなかった。交通事故死した中年男と盲目の若い女性の絆を、事件を担当した刑事が探っていくというミステリー。『市民ケーン』のように、複数の証言とドラマが交互に登場する構成だ。ただ、物語自体にあまりヒネリがない。

 こうした形式だと、どうしても最後はどんでん返しを期待してしまうが、やけにあっさり終わってしまった。これでは単なる「美談風のメロドラマ」だ。刑事が聞き込みをしている話なのに、証言がビデオになるという不整合も気になった。上映された8本の作品の中では、残念ながら一番つまらなかった。


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