エリザベス

1999/06/04 有楽町朝日ホール
陰謀と権力抗争に満ちたエリザベス1世の若き日々……。
作り手側の狙いはわかるが、暗すぎる。by K. Hattori


 今年のアカデミー賞で6部門にノミネートされ、最優秀メイクアップ賞を受賞した歴史大作。16世紀に大英帝国の基礎を築いたエリザベス1世の若き日々を、宮廷内での権力抗争を主軸に描いた物語だ。主人公エリザベスを演じるのは『オスカーとルシンダ』のケイト・ブランシェット。脇役陣は超豪華で、恋人ロバートを演じるのは『恋におちたシェイクスピア』のジョセフ・ファインズ、腹心のウォルシンガムを演じるのは同じく『シャイン』のジェフリー・ラッシュ。他にも『日陰のふたり』のクリストファー・エクルストン、リチャード・アッテンボロー、サー・ジョン・ギールグッドなどが存在感たっぷりの芝居を見せ、フランスからもファニー・アルダンとヴァンサン・カッセルが参加。これだけで、映画ファンならため息が出そうになります。

 ところがこの映画、ちっとも面白くないのです。陰謀、暗殺、裏切り、ロマンス、セックスなど、ドラマとしては盛りだくさんだし、豪華なセットやコスチュームなど、歴史劇としての風格も十分なのに、物語の焦点が定まらないまま迷走飛行をしてしまう。登場人物が多くてそれぞれの役目がわかりにくいのと、当時の時代背景が説明なしに描かれるので、観ている方は戸惑います。この映画はアメリカ映画ではなく、プロデューサーも脚本家もイギリス人というイギリス映画。たぶんイギリス人にとっては、エリザベス1世にまつわるさまざまな事柄は、日本人が信長や秀吉に知っているのと同じように親しみやすいことなのでしょう。だからこそ、説明なしにどんどん物語を進めてしまう。でもこれは、日本人にはさっぱりわからない。エリザベスを取り巻く複雑な血縁関係や、フランスやスペイン、スコットランドなどとの外交関係、カトリックとプロテスタントの対立などは、もう少しわかりやすく説明する方法があったと思う。

 主演のブランシェットはオーストラリア人。「なぜイギリスの女王を外国人に演じさせるのだろうか?」とも思ったのですが、このキャスティングによって、主人公エリザベスが宮廷内で孤立していることを表現しているのです。最後まで彼女を助けるウォルシンガムを演じているのも、同じオーストラリア人のジェフリー・ラッシュ。作り手の意図は明らかです。オーストラリアはかつてイギリスの植民地だったところですから、イギリス人にとっては「遠い親戚」みたいなものかもしれません。この映画の監督シェカール・カブールはインド人ですが、インドもかつてイギリスの植民地でした。この映画は、映画の中で「大英帝国」を再現しているのです。

 庶子として生まれたエリザベスが、絶大な権力を握る英国女王にまで上り詰めて行く様子は「太閤記」のような立身出世伝。しかしこの映画に、立身出世の爽快感はありません。ひたすら暗い。映画を観終わった後も、暗澹たる気持ちになります。美術は素晴らしいのに、撮影で空間の広がりが感じられないのも疑問。編集にところどころ変なところがあって、それも気になりました。

(原題:ELIZABETH)


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