ハング・ザ・DJ

1999/05/20 シネカノン試写室
音楽業界に現れた「DJ」というスターの生態を描くドキュメンタリー。
DJの世界はこうなってるのか……。面白い。by K. Hattori


 僕は最近めっきり音楽を聴かなくなってしまったので、ポピュラーミュージックの世界で「DJ」と呼ばれる人たちがどれほど注目を集めているのかまったく知らない。『ジュース』『アムステルダム・ウェイステッド』『HeavenZ.』などの映画を通して、クラブDJというものを間接的に知っているに過ぎなかった。『ハング・ザ・DJ』はドラマに登場するDJではなく、本物のDJたちを見せてくれるドキュメンタリー映画。世界を股にかけて活躍する第一線のクラブDJたちが勢揃いし、それぞれの音楽観やDJ哲学を語る。出演しているのは、ジュニア・ヴァスケス、ダニー・テナグリア、ロジャー・サンチェス、Q−バート、ラリー・レヴァンといった面々。僕はこの世界にまったく詳しくないのでよくわかりませんが、わかる人が観れば「えっ、あの人が!」と驚くような有名人たちばかりのようです。

 この映画に登場するのは、DJたちばかりではありません。音楽プロデューサー、クラブに集うファンたち、ドラッグクィーン、DJブームに批判的な意見の持ち主までが登場して、それぞれの意見を述べます。映画の中でもっとも大きなテーマになっているのは、DJはアーティストと言えるのか、DJはミュージシャンなのか、DJの行為の中にクリエイティブを認めるべきかという点でしょう。DJは自分で楽器を演奏するわけではない。彼らは複数のターンテーブルと制御盤を使って、何枚ものレコードを組み合わせ、新しいサウンドを作りだして行く。「ビートルズとDJが同じミュージシャンであるはずがない」という意見の持ち主は、DJのやっていることを“創作行為”とは認めない。しかしこれは、映画の中でごく例外的な意見。登場するDJたちは自分たちの仕事をクリエイティブなものだと信じているし、それに誇りを持っている。彼らはそれぞれに独自のスタイルでダンスの場を盛り上げて行く。その個性豊かな音楽性を見ている限り、そこには何らかの「創造性」や「アーティストとしての個性」を認めざるを得ないでしょう。

 ドキュメンタリー映画というと「地味」「低予算」「暗い」という先入観がありますが、この映画はド派手のピカピカ。大音響で音楽が流れるクラブ内部の描写はすごい臨場感。カットの切り返しやスローモーションなどで演出された撮影と、ドルビー・デジタルの生々しいサウンドが見事にかみ合っています。僕はこの手のクラブに行ったことなどありませんが、「なるほど、こういう世界があるのか」と納得できる描写でした。

 今回の試写は映画マスコミより「その手の業界の方々」が多かったようで、来場者のマナーはあまりよくなかった。エンドクレジットが始まったとたん、満員で補助席までギッシリ人が埋まっていた試写室から出始めて、最後まで映画を観ていた人は4割程度。う〜ん、こんなマスコミ試写は初めてだ。遅れてくる人が多かったのも気になった。映画の前に予告編でも流していると思ったのかな……。ちょっと奇妙な試写でした。

(原題:HANG THE DJ)


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