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1999/04/21 メディアボックス試写室
イギリス人の若い葬儀屋が、女優志願のアメリカ娘に恋をした。
皮肉のスパイスがたっぷりかかったコメディ。by K. Hattori


 スコットランドで葬儀屋を営むリチャードは、観光に来ていたアメリカ人女性バーバラと出会って一目惚れ。彼女がアメリカに帰った後、仕事を放り出して彼女の住むロサンゼルスに飛んでいく。バーバラは女優志願のウェイトレスで、突然リチャードが現れたことに戸惑い気味。リチャードは薄汚い一軒家を借り、プール掃除のアルバイトをしながらバーバラにアタック。ついに彼女のハートを射止めたように思えたのだが……。

 監督・脚本はミカ・カウリスマキ。『マッチ工場の少女』『浮き雲』などで日本にも多くのファンを持つ、アキ・カウリスマキ監督の実兄だ。この映画の中では弟の作品『ラヴィ・ド・ボエーム』が、主人公たちがデートの時に観る映画として引用されていたりする。主人公リチャードを演じているデイヴィッド・テナントや、バーバラ役のヴァネッサ・ショウは日本ではまだ無名だが、気のいい隣人モスを演じたヴィンセント・ギャロや、バーバラの同僚でモスの恋人になるジュリーを演じたジュリー・デルピーが脇からふたりを支えて、きちんとしたアンサンブルを作り上げています。

 タランティーノの脚本をトニー・スコットが映画化した『トゥルー・ロマンス』には、主人公に助言を与えるプレスリーが登場しましたが、この映画で主人公リチャードにアドバイスするのは、映画『デッドマン』のポスターに登場するジョニー・デップ。この役に、ちゃんと本人が出演しているのがすごい。最近のジョニー・デップ出演作では、この役が一番かもしれません。(本人の役だから、役作りが不要というメリットもある。)この映画はゲスト出演がかなり豪華。デップ以外にも、数多くの映画人が登場し、スターたちが集う華やかなハリウッドの雰囲気が伝わってきます。

 映画製作業界の舞台裏をシニカルに描いている点で、この映画はアルトマンの『ザ・プレイヤー』を連想させますが、主人公たちを映画業界の外側に置いたことで、その皮肉っぽさはさらに切れ味を増している。バーバラを口説く若い映画監督が、最新の企画として語る猫版の『エイリアン』は、プロットを聞くだけでいかにもつまらなそうなところが逆にリアル。リチャードのエージェントが語る脚本売り込みの秘訣も、彼の地で量産されている安っぽいB級アクション映画には不可欠なものでしょう。ハリウッドでは、才能がなくても自信過剰なヤツがのさばっている。ハッタリとナルシズムの世界。謙虚さや謙譲の美徳は、ここではまったく問題にされない。

 監督はフィンランド人、主演はイギリス人、ヒロインのひとりはフランス人、町の与太者から今をときめく大スターまでがまんべんなく登場し、しかもそこに少しの違和感も生じないというのが、ハリウッドという舞台が持っている不思議な魔力なのかもしれません。ヴィンセント・ギャロは、やはり上手い。彼は今一番旬の若手役者でしょう。主演のデイヴィッド・テナントは、スティーブ・ブシェミにちょっと似てるかも。

(原題:LOS ANGELS WITHOUT A MAP)


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