クレヨンしんちゃん
爆発!温泉わくわく大決戦

1999/04/09 東宝第2試写室
子供も大人も楽しめる仕掛けがいっぱいのエンターテインメント。
今度の『クレしん』は怪獣映画のパロディだ。by K. Hattori


 映画版『クレヨンしんちゃん』の第7段は、政府の秘密組織である温泉Gメンと、風呂嫌いが集まる悪の組織の戦いを描くアクション大作。相変わらずシャープなアクション描写で、今回は平成ガメラ・シリーズも真っ青の怪獣映画に挑戦している。物語のまとまりは今ひとつだが、この映画に子供を連れてくる30代のパパママ世代が泣いて喜ぶ趣向が盛りだくさん。毎度バカバカしいお笑いの数々に、オタクっぽい映画ネタをちりばめて、大人も子供も楽しめるエンターテインメントにしている。今回は長編の『爆発!温泉わくわく大決戦』に加え、短編の『クレしんパラダイス!メイド・イン・埼玉』の2本立て公開。う〜ん、『ドラえもん』化してきたな……。

 物語は秩父温泉の露天風呂からはじまる。慰安旅行で温泉を訪れていたふたば幼稚園の先生たちが、目の前を横切る巨大な怪獣を目撃する。その数日後、野原一家は謎の何者かに拉致され、某所にある温泉Gメンの地下秘密基地に案内された。説明によれば、秩父で目撃された怪獣は悪の組織“YUZAME”の開発した巨大ロボット。彼らはマグマ熱を利用して極地の氷を溶かし、世界中を水没させるという「地球温泉化計画」を進めているのだという。それに対抗するには、伝説の温泉“金の魂の湯(略称:キンタマの湯)”のパワーが必要だ。じつは野原宅の地下から、それが発見されたのだ。温泉Gメンの秘密基地は潜入したYUZAMEの工作員によって破壊されるが、主要メンバーと野原一家は、秘密通路を通って外に脱出。間もなく敵の巨大ロボットが春日部に向かって進行し始め、反撃のために自衛隊が出撃する。

 YUZAMEの巨大ロボットと自衛隊の戦いは、東宝怪獣映画の巧妙なパロディになっている。戦車が行軍する際のテーマ曲は『怪獣大戦争』。ゴルフ場の芝生を蹴散らして、戦車がガーッと走り回る場面には興奮してしまうし、その上空を航空自衛隊の戦闘機が飛んでいくシーンも見事に決まっている。このノリは、平成『ガメラ』シリーズやハリウッド映画に比べても、まったく遜色のない仕上がりだ。日本映画もアニメなら、これだけ面白いものが作れるんだよね。技術力もそうだけど、絵作りのセンスもいい。東宝の『ゴジラ・ミレニアム』では、この映画のスタッフに絵コンテを描かせてほしい。

 アクション・シーンはすごいのだが、今回は話そのものが今ひとつ。ゲスト出演している丹波哲郎の役割が都合よすぎるし、悪の組織YUZAMEの行動目的も矛盾が見えてしまう。彼らは風呂嫌いなんだから、地球全体を温泉にしてしまっては、自分たちが困るではないか。YUZAMEの首領の行動動機も、昭和41年生まれの僕にはいまひとつピンと来ないぞ。このネタは40歳以上の人でないと納得できないと思うけどな……。

 しかし、この映画を観ていると温泉に行きたくなるのは確か。風呂上がりのビールはうまそうだ。日本アカデミー賞でいかりや長介の助演男優賞受賞に狂喜した人間なら、エンド・タイトルには感激の涙を流すはず。


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