フレンチ・カンカン

1999/04/02 徳間ホール
ジャン・ルノワールが1954年に撮ったミュージカル大作。
最後のショー場面は感涙ものの大迫力。by K. Hattori


 フランスの大監督ジャン・ルノワールが、1954年に撮ったカラー映画。『大いなる幻影』や『ゲームの規則』などで戦前のフランス映画に名を残すルノワールは、戦争中にアメリカに活動拠点を移してハリウッドで何本かの映画を監督。その後インドで『河』を撮り、イタリアで『黄金の馬車』を撮った後、フランスに戻って撮ったのが『フレンチ・カンカン』だ。19世紀末に作られた有名なミュージック・ホール“ムーラン・ルージュ”が生まれるまでを描く、歌あり踊りありのミュージカル映画で、ラストの30分間は豪華絢爛たるショー場面が延々続き、観る者を恍惚とさせること間違いなし。主演は、ルノワールと戦前から何本もコンビを組んでいるジャン・ギャバン。彼はミュージック・ホールの芸人から映画俳優になった人で、ムーラン・ルージュで歌っていたこともあったそうです。ヒロインはフランソワーズ・アルヌール。他にも豪華スターが多数、脇役やゲストで出演しています。テクニカラーの華麗な色彩がまばゆいばかり。アメリカのミュージカル映画とはひと味もふた味も違う、フランスならではの傑作映画だと思います。

 ジャン・ギャバンが演じているダングラールという興行主は、ムーラン・ルージュの創立者ジードレルをモデルにした架空の人物。この映画ではムーラン・ルージュという実在の場所を借りて、そこで自由に人物を動かしている。ハリウッド映画なら実名を出して、ぬけぬけと嘘八百の伝記を作ってしまうのでしょうが、『フレンチ・カンカン』はそうした小細工をせずに、最初から「これはフィクションです」と宣言してしまうのがいい。

 話は単純でよくあるバックステージもの。新しいミュジック・ホールを建設しようとしている興行主が、呼び物になる出し物にフレンチ・カンカンを思いつき、洗濯女をしていた若い女をダンサーに大抜擢。厳しい稽古の中で、興行主とダンサーとの間には愛が芽生えるが、最後にはダンサーはショーの舞台に生き、興行主は舞台をプロデュースする側で生きて行く。ワーナーの傑作ミュージカル映画『四十二番街』がこの手のバックステージものすべての原型で、『フレンチ・カンカン』もそのバリエーションです。興行主の愛人だった歌手と若いダンサーの三角関係が最後に解消し、ベテラン歌手が新人を舞台に快く送り出すあたりも『四十二番街』を連想させるものでした。しかし、セックスのからんだ恋愛関係の機微を生々しく描くあたりは、やはり恋愛に長けたフランス人の感覚。男女関係のドロドロした部分を、きちんとショーアップして見せる手腕はさすがです。

 最大の見どころは、やはり最後のフレンチ・カンカンの場面。24人の踊り子が色とりどりの衣装で客席になだれ込み、エネルギッシュに踊る様子は壮観です。それまでのすべてのエピソードは、この最後のスペクタクルのために用意されていたと言っても過言ではない。僕は楽しくて嬉しくて、思わず涙が出そうになりました。今回はニュープリントのピカピカ映像。これは必見です。

(原題:FRENCH CANCAN)


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