名探偵コナン
世紀末の魔術師

1999/03/30 東宝第1試写室
ロマノフ王朝の秘宝インペリアル・イースター・エッグの謎と、
怪盗キッドとの対決を描く。劇場第3弾。by K. Hattori


 ロマノフ王朝の遺産をテーマにした、劇場版『名探偵コナン』の3作目。名うての宝石泥棒、怪盗キッドから送りつけられた挑戦状に、コナンが真正面から挑む。コナンの正体は行方不明の高校生探偵・工藤新一なのだが、謎の組織に命を狙われているため、周囲にもその秘密を明かしていない。今回は新一の恋人だった毛利蘭に、コナンの正体がばれるのではないかというスリルも盛り込まれている。コナンの正体を知る親友、関西の高校生探偵・服部平次の登場など、見どころは多いのだが、物語は怪盗キッドの追跡とロマノフ王朝の遺産の話に分裂して、全体にやや薄味の印象になってしまった。

 怪盗キッドがすべての謎を解く鍵を握っているのだが、彼がなぜあらゆる謎をあらかじめ知りつくしているのかという疑問に、映画は答えてくれない。役柄そのものがトランプのジョーカーのようなオールマイティー・カードになってるので、困ったときにはキッド頼みになってしまうのは少し安直かもしれない。また、キッドの逃走経路を、謎のスナイパーが予期していた理由もわからない。映画には描かれていないが、ふたりはグルだったのかな。そう考えれば、キッドが複雑な裏の事情をすべて知りつくしている理由も、謎のスナイパーがキッドの逃走路を知っていた理由も説明が付く。あるいは、キッドは工藤新一の命を狙う、謎の組織の関係者なのだろうか。今回の映画では、途中からすっかり脇に追いやられてしまう怪盗キッドの追跡劇だが、彼が今後のシリーズで重要な人物になりそうな気配は濃厚だ。

 今回の映画で怪盗キッドに狙われるのは、日本で発見されたロマノフ王朝の秘宝、インペリアル・イースター・エッグ。キリスト教圏では復活祭の贈り物として卵を贈る習慣があるのだが、その卵には染料で色を付けたり、色とりどりのペイントをしたりする。この映画に登場するイースター・エッグは、ロマノフ王朝最後の皇帝アレクサンドル3世が、皇后に贈ったと伝えられる美術工芸品だ。宝飾職人の手で精巧な飾り細工を施されたこのイースター・エッグは、現在までに50個の存在が確認されているという。映画に登場するのは、51個目のイースター・エッグというわけだ。(ちなみに、今年のイースターは4月4日。映画の公開はタイミング的にちょっと遅れているが、イースターを祝う習慣自体が日本にはないから、構わないのかもしれない。)

 映画最大の見どころは、発見されたイースター・エッグに秘められた謎が、すべて明かされる場面。本来ならここで、ロマノフ王朝と日本を結ぶ人間関係や謎もすべてが明らかになり、映画に登場する人々も観客も、大いに感動しなければならないはずだ。ところがこの映画では、事前にきちんと人間関係が描かれていないため、圧倒的な感動に結びついていかないのは残念。時価にして8億とも15億とも言われるエッグの所有権を、感動のあまり皆が手放してしまうというくだりに、ややリアリティが欠如してしまったことが恨めしい。


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