若き日の次郎長
東海一の若親分

1999/03/29 東映第1試写室
中村錦之助が若き日の清水次郎長を演じるマキノ監督作品。
大味だが模範的なプログラム・ピクチャー。by K. Hattori


 マキノ雅弘は清水の次郎長が好きな監督で、東宝で『次郎長三国志』シリーズ9部作を撮り、後に東映でもそれを4部作にリメイクしている。『若き日の次郎長』シリーズはふたつの『次郎長三国志』にはさまれて作った連作シリーズで、東映時代劇の大スター中村錦之助が売り出し中の若親分・清水次郎長を演じている。ちなみに、マキノ監督にはこれらの他にも、何本も次郎長ものを撮っている。マキノ監督も次郎長が好きだったが、昔の映画ファンも次郎長ものが好きだったのだ。日本映画で、最後に次郎長が撮られたのはいつのことだろうか。

 「マキノ雅広自伝・映画渡世」によれば、『若き日の次郎長』シリーズは低予算で撮影スケジュールもタイトな映画だったらしい。早撮りで有名なマキノ監督は、これらの作品を2週間で撮影したという。話半分としても、ずいぶんと早い。これは結局、大道具・小道具・衣装などが全部1ヶ所にそろった、スタジオ・システムがあればこそ可能な離れ業なのだ。この映画は『若き日の次郎長』シリーズの2作目にあたり、次郎長とお蝶の結婚、次郎長一家に大政と石松が加わるまでの顛末が描かれる。それぞれ個性的に描かれる次郎長一家の面々は、かつての日本人には全員顔なじみの人物だったのでしょう。次郎長ものは戦前から戦後にかけて、各社で数十本が作られている。広沢虎造の浪曲もポピュラーだった。ただ、それを今の僕が観ても、いまひとつピンと来ない。かつて日本人なら知らぬ人のなかった清水次郎長も、今となっては遠い世界の人になってしまいました。

 この映画は、今観てもそれなりに楽しい。でも、生ぬるくて緊張感がないのも確か。すべてが予定調和で、意外性がどこにもない。しかしこの映画がすごいのは、この映画を観ていても「ここをもう少しこうすれば面白くなるのに」とか「ここが失敗なんだよな」と思う点がひとつもないこと。つまり、この映画はこの形で完璧に完成されていて、微動だにしないのです。物語は山あり谷ありで、1時間半が少しも退屈しない。ビックリすることもないが、失望もしない。まさにプログラム・ピクチャーの見本。昔の日本では、こんな映画が毎週入れ替わりで公開されていたんですね。しかも2本立てで。

 明朗快活な娯楽時代劇で、陰惨で血生臭い集団抗争の匂いは皆無。次郎長一家が最後に敵地に乗り込んでも、「殺すのはやめだ」でシャンシャン手打ちになって、その引き際のよさが他の親分衆の評判になるという寸法。物語の後半は、ドモ安が農家の窮状に乗じてかき集めている女たちを助ける話になりますが、助けた後で女たちをどうするつもりなのかさっぱりわからないのが玉にきずです。僕はまた、次郎長が女たちを全員清水に引き連れていって、清水で女郎屋を開くのかと思ってしまいました。この映画の中では、女郎屋稼業そのものはぜんぜん否定されてません。次郎長の子分たちも、宿屋に泊まるより女郎屋に泊まりたがるし、次郎長も恋女房に似ているという理由だけで敵娼を身請けしてしまうし……。


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