プレイバック

1999/03/24 メディアボックス試写室
子供の頃からの親友同士が、二人でひとりの歌手を演じる。
ハリウッドでリメイクすれば傑作になるだろう。by K. Hattori


 「プレイバック」というのは、ステージ上の歌手が録音テープに合わせて歌うフリをすること。いわゆる「口パク」というやつです。この映画では、外向的な性格でステージ映えするジョアンナと、音楽的才能と美しい声を持つジャンヌが、二人一組になってスターになって行く。ステージ上のジョアンナの影には、バックボーカルとして参加し、実際にはリードボーカルを歌っているジャンヌがいる。スポットライトとファンの喝采を浴びるジョアンナと、日陰の身に甘んじることで彼女を盛り立てようとするジャンヌ。こうした奇妙な関係は、最初のうちこそうまく機能していたが、ジョアンナが大スターへの階段を上り詰めて行くにつれ、少しずつ歪みが生じてくる。ジョアンナは自分の人気が「本物」ではないことを知っている。いつか影にいるジャンヌがステージの中央に立ち、自分が忘れ去られてしまうのではと恐れる。かつて親友だったふたりの関係は、少しずつ冷え込んで行き、やがて崩壊してしまうのだ。

 美貌の人気スターと、その影で声だけを提供する吹替歌手という関係は、映画の中にしばしば登場します。かつてのミュージカル映画全盛時には、人気スターを何人かの匿名歌手たちが支えていた。マーニ・ニクソンのように、そこから抜け出して評価の対象になる人もいれば、そのまま映画史の中に埋もれてしまう人もいる。MGMの傑作ミュージカル『雨に唄えば』は、まさにそうした世界を描いていました。(吹替歌手を演じたデビー・レイノルズの声が、じつは吹替だというのも有名な話。)

 吹替歌手が登場しなくても、ミュージカル映画では歌だけを先に録音しておき、それに合わせて俳優が口パクで演技する様子を撮影します。コンサート映画のように1曲を丸々通しで撮影するものは別ですが、通常の劇映画では同時録音などあり得ない。この『プレイバック』という映画も、当然ながら録音テープを使って撮影したはず。だからコンサートのシーンでは、口パクで歌っているジョアンナの後ろで、録音テープに合わせてジャンヌが歌っているという不思議な現象が起きます。

 この映画では、ジョアンナとジャンヌがなぜ二人一組で歌手活動をしなければならないのか、その理由が弱い。オーディション番組にソロ歌手しか出場できなかったという理由はわかる。でもレコード会社のスカウトが現れた時点で、真相を明らかにしておけばこんなに難しい事態にはならなかった。もちろんこの映画は「二人一組の歌手」というアイデアが物語の核だから、それを何とかして成立させる必要がある。しかしこの映画のオーディション場面には、あまり説得力がないのだ。オーディションで録音テープを使って歌うのも、反則だと思うしね。

 序盤は夢多き少女たちのサクセス・ストーリーなのだから、もっと勢いよく物語が弾んで行かなくてはならない。物語に勢いがあれば、オーディションの反則やデビューの不自然さも、あまり気にならなかったと思う。アイデアは面白いけど、今ひとつパッとしない映画だった。

(英題:Play Back)


ホームページ
ホームページへ