豚の報い

1999/03/18 徳間ホール
沖縄を舞台に、生と死と性を描いたコメディ・ドラマ。笑えます。
アジア映画の匂いがする崔洋一最新作。by K. Hattori


 崔洋一監督の最新作は、沖縄を舞台にしたコメディ・ドラマ。又吉栄喜の同名小説を、崔監督とは何本もコンビを組んでいる鄭義信(チョン・ウイシン)が脚色。そして製作は仙頭武則。というわけで、監督・脚本・製作の顔ぶれは『月はどっちに出ている』(WOWOW製作のJ・MOVIE・WARS版)とまったく同じです。この映画は昨年末に仙頭プロデューサーが設立した、サンセントシネマワークスという会社の第1作目。最初の作品を作るにあたって、かつて『月はどっちに出ている』で日本映画界にセンセーションを巻き起こしたメンバーを再び集めるあたりに、仙頭プロデューサーの1作目にかける意気込みが感じられます。

 『月はどっちに出ている』がそれまでの日本映画の枠組みを軽々と飛び越えていたように、この映画も従来の日本映画という枠から大きくはみ出した作品です。沖縄を舞台にした映画は今までにもたくさん作られていますが、沖縄の持つアジア的な風土を、日本映画風に翻訳することなしに、ここまでコッテリと描ききった映画は初めてではないでしょうか。この映画から受ける印象は、日本映画というより、中国・台湾・インド・イランなどのアジア映画に近いのです。昨今はマスコミも沖縄ブームで、やたらと「沖縄の心」を日本本土に訴えかける映画が多いのですが、この映画にはそんなよそ向きの顔ではない、沖縄の素顔が描かれているように見えました。

 もちろん、僕はこれが沖縄の現実をそのまま描いた作品だとは思っていません。ただ、この映画で描かれている沖縄やそこに暮らす人々は、日本やアメリカという比較対照なしに、それぞれ勝手に存在している点がユニークなのです。『ひめゆりの塔』や『GAMA/月桃の花』のような劇映画、『人間の住んでいる島』や『教えられなかった戦争・沖縄編/阿波根昌鴻・伊江島のたたかい』のようなドキュメンタリー映画などは、たとえ物語の舞台が沖縄に限定されていようと、映画の作り手や製作母体が沖縄に根ざしていようと、必ず「沖縄と日本」「沖縄の心と日本の歴史」というように、沖縄が何かとの対比や比較の中で相対的に描かれていたはずです。でも『豚の報い』には、そうした沖縄以外の比較対象物がない。映画に描かれる物語も、そこに登場する人々も、日本やアメリカや他のどんなものとも関係なしに、勝手にそこに存在しているのです。

 我々がアジア映画を観る場合、そこに日本と相対化しながら描かれる中国やイランの姿など期待しないはずです。現地の映画スタッフや俳優たちが生活に根ざして作った物語の中に、日本の観客はアジア諸国の生の姿を見いだすのではないだろうか。『豚の報い』という映画の中には、それと同じ生々しさがあふれているのです。物語にはよくわかりにくい点もあります。僕は最後まで、主人公の青年と3人の女たちの関係がよくわからなかったしね。でも、そうした物語性とはまったく別の部分に、この映画の見どころはある。海と空を墨絵のようにモノトーンで処理した撮影も、映画に風格を与えています。


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