洗濯機は俺にまかせろ

1999/03/12 東宝東和一番町試写室
『月とキャベツ』の篠原哲雄監督が微妙な恋の三角関係を描く。
新人の百瀬綾乃がすご〜くカワイイ。by K. Hattori


 山崎まさよし主演の『月とキャベツ』で、若い観客から熱狂的な支持を受けた篠原哲雄の新作。『月とキャベツ』が好きな人は、この映画もたぶん気に入るでしょう。篠原監督は前作『悪の華』で異様なコメディ・センスを披露した人ですが、あのオカシサがわからない人もたくさんいたと思う。(そもそも『悪の華』がコメディか否かという時点で、議論がありそうだし……。本人はシリアスなハードボイルド映画のつもりだったりして。)でも今回の『洗濯機は俺にまかせろ』に関しては、わりと万人受けする映画になっていると思います。

 小さな町の小さな商店街で、中古家電製品を修理販売する店に勤める木崎という若い男が主人公。ある雨の日、その店にずぶぬれになった女が飛び込んできてズカズカと店の奥に入り込み、木崎に向かって「あんた誰?」とたずねる。彼女の名は節子。社長の一人娘で、木崎がこの店に勤める前に結婚して家を出ていたから、これが初対面だ。仕事はラジオ深夜番組のDJ。結婚に失敗し、仕事もなくなって、ぶらりと家に帰ってきたのだ。

 映画は木崎と節子の恋愛話に突入するのかと思いきや、ふたりの間に生まれた好意と嫉妬の微妙な距離感を描いて行く。木崎は一方で節子に興味を持ちつつ、商店街の向かいのパン屋で働くアルバイトの女の子にも興味がある。積極的にどちらかを口説くでもなく、成り行き任せにふたりの女性の間をふわふわ漂っている木崎の姿は、優柔不断のようでもあり、今風の優しさを感じさせるものでもある。木崎を演じているのは筒井道隆。節子を演じているのは富田靖子。僕は昔から富田靖子のファンなので(その時だけそう言うにわかファン)、自分が筒井道隆の立場だったら迷わず靖子ちゃんの方に走るのではなかろうか。……と思わせつつ、パン屋のアルバイト秀子を演じている、新人の百瀬綾乃もかわいいぞ。この子は演技経験はあまりないようで芝居も硬いんですが、そのカチコチしたぎこちなさが、秀子というキャラクターの生真面目でちょっとヤキモチ焼きの性格とぴったり合って、じつにいい味になっている。う〜む。

 物語は木崎と節子と秀子の三角関係であると同時に、木崎と節子と木崎の先輩だった大紙という元修理工の三角関係でもある。しかしこうした恋愛のダブル・トライアングルは、明確な形になる前にすべて解消してしまう。このオチが、僕はいまひとつよく飲み込めなかった。結局、木崎はどっちの女の子を選んだんだ? バツイチの身で失業中の節子が立ち直って行く様子を、洗濯機の修理過程とオーバーラップさせながら描いた映画だから、この映画の中では「洗濯機=節子」という方程式が成り立っている。木崎は洗濯機を直した後、それをきれいに磨き上げて手放すのだから、結局木崎は節子と別れるという意味か……。そう考えればわかるけど、こんな考えオチは映画の結末としてはどうもシックリこない。もっと明快な結末があれば、この映画を観た後、もっとスッキリした気持ちで試写室を出られたんだけど。


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