燃えよピンポン

1999/03/10 映画美学校試写室
『ヒロイン!』の三原光尋監督が2年前に撮った自主製作映画。
低予算のチャチな映画だけど笑えます。by K. Hattori


 室井滋がママさんバレーで大活躍する『ヒロイン!』でメジャー作品に躍り出た三原光尋監督が、『ヒロイン!』の前年に製作した自主製作映画。子供の頃からライバルで、今は勤めている会社がライバル同士の女性ふたりが、ひとりの男性を巡ってピンポンで対決する物語。バレーがピンポンになっただけで、筋立てはまるっきり『ヒロイン!』と同じ。僕は『ヒロイン!』という映画にいまひとつノレなかったんですが、それは主人公の生活や家族関係をリアルに描く部分と、マンガチックなスポーツ対決ものに大きなギャップを感じたからです。しかしこの『燃えよピンポン』は、最初から最後まで徹底したマンガ指向。主人公の威勢の良さとご都合主義の展開でグイグイ物語を引っ張り、キレのいい大阪弁とコテコテのギャグを小刻みに連発して無理矢理笑わせるセンスには脱帽。『ヒロイン!』でも見せたミュージカル風の演出やパロディも健在で、規模は小さいながらも、インド映画風の大らかな娯楽映画に仕上がっています。

 この映画を正統派のスポーツ映画だと思ってはいけないし、ピンポンを扱っているからといって『卓球温泉』のようなホノボノ系コメディだと思ってもいけない。この映画に登場するピンポンは、「ダサくて人気のない地味なスポーツ」の象徴として登場するだけで、その地位は映画の最後まで決して動かない。ダサくてショボいスポーツに、主人公がどういうわけかのめり込んで行く部分をギャグにしているわけで、ここでは真面目にピンポンをスポーツ扱いするつもりはないのです。主人公がスポーツクラブでピンポンを練習するのではなく、中国秘伝のジークン流卓球術の奥義を究めるという、荒唐無稽な展開になるのもその証拠。弟子入りした主人公が畑の肥まきや魚捕りをしながら卓球の奥義を会得するという展開は、アメリカの空手映画『ベスト・キッド』でラルフ・マッチオが壁のペンキ塗りをしながら空手の奥義を身に着けるのと同じ。そもそも、ジークン流卓球を日本に伝えたのが「リーばあさん」というあたりが、既にカンフー映画のパロディなんだけどね。

 こんな出鱈目なピンポン映画だから、正式な試合の場面など当然あるはずがない。山で修行中に試合は終わってしまい、主人公とライバルは個人的に決着を付けるために戦いの場に挑む。ここはブルース・リーの『死亡遊戯』のパロディになっていて、建物の1階ごとに、緋牡丹博徒風のピンポン選手や、セーラー服のコギャル選手などが待ちかまえている。主人公の服装は、もちろんいつの間にか黄色のジャージ姿。いや〜、笑います。

 この映画を観ると「この監督にもう少し贅沢な環境で映画を作らせたい」と思いますが、その結果できた映画が『ヒロイン!』だから、たぶんお金があってもなくても、似たような作風から脱出できない人なのかもしれません。芝居のテンポはいいのに、撮影に工夫がなく、編集にリズムがないんですよね。そのあたりが一皮むけると、今よりもっともっと面白い映画が撮れると思うけど。


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