カラー・オブ・ハート

1999/03/09 GAGA試写室
往年の人気テレビドラマの世界に紛れ込んだ高校生の冒険。
モノクロ画面が少しずつ色づく面白さ。by K. Hattori


 ケーブルテレビで放送されている1950年代の人気ドラマ「プレザントヴィル」に、内気な高校生デイビッドと妹のジェニファーが入り込んでしまう。セックスも暴力もない世界にふたりが飛び込んだことで、モノクロ番組だった「プレザントヴィル」は少しずつ着色されていく。やがて町では、モノクロの住人とカラーの住人との間で対立さえ起きる。はたしてデイビッドとジェニファーは、無事にもとの世界に戻れるのか。様相を変えた「プレザンドヴィル」はどうなるのか……。

 モノクロのテレビドラマに、色の付いた現代風の人物が入り込むというアイデアは、1989年のイタリア映画『シャボン泥棒』にもあったもの。ケーブルテレビの中に視聴者が入り込んで脱出路を探すというアイデアは、1992年のピーター・ハイアムズ監督作『カウチポテト・アドベンチャー』にもある。いずれにせよ、それだけでは目新しいアイデアとは言えない。主人公たちの入り込む世界が、人間のネガティブな面を完全に排除した清潔すぎる世界だという点にしても、『トゥルーマン・ショー』を観たあとでは新鮮味が薄れる。現代の高校生が1950年代にタイムスリップして文化ギャップを味わう話は、言わずとしれた『バック・トゥー・ザ・フューチャー』です。つまり、この『カラー・オブ・ハート』という映画は、いろんな映画の面白いところを少しずつかじった、パッチワークのような映画なのです。

 個々のアイデアに新鮮味がないからと言って、映画がつまらないわけではない。この映画には主人公の成長物語という太い芯があるし、世界の変化を誰も止めることはできないというメッセージも込められている。ロマンチックな要素もあれば、手に汗握るスリルもあり、思わず声を出して笑ってしまうようなユーモアもたっぷり。監督・脚本はゲーリー・ロス。トム・ハンクスが大きな子供を演じた『ビッグ』や、ケビン・クラインが大統領のそっくりさんを演じた『デーヴ』の脚本家として有名な人ですが、これが監督デビュー作になります。

 お話の面白さもさることながら、この映画最大の見どころは、モノクロの世界に少しずつ色が付いて行く描写の素晴らしさにある。アメリカでは往年のモノクロ映画やテレビ番組にコンピュータで着色する「カラライゼーション」という手法がポピュラーになっているのですが、この『カラー・オブ・ハート』の着色過程はまさにカラライゼーション風。モノクロの映画の中で、特定の物や人物だけがほんのりと色づいている様子を、ある時はカラー撮影後の脱色で、ある時はモノクロ撮影後の着色で、ある時はモノクロセットの中にカラーの小物を置いて再現している。全体の色調を整えるため、テレビ番組のシーンだけでなく、現実のシーンも色味を調節するなど、非常に繊細な芸を見せてくれます。おそらく、映画のほとんんどの場面をフィルムスキャナーで読み込み、デジタル処理したのでしょう。単純なアイデアですが、手間と時間とお金がかかっている映画です。

(原題:PLEASANTVILLE)


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