フリーマネー

1999/03/05 GAGA試写室
マーロン・ブランドがなぜこんな映画に出るのだろうか?
しばらく胸焼けしそうな珍品映画。by K. Hattori


 ミラ・ソルヴィーノ、チャーリー・シーン、マーロン・ブランド、ドナルド・サザーランドなど、出演者はやけに豪華。(最後の最後に、マーティ・シーンもちょっとだけ登場。)しかし、話はなぜか非常に安っぽい。いや、単純に安っぽいと言ってはいけないような雰囲気が、この映画には濃厚に漂っています。この映画の奇妙さは、ちょっと他に類を見ないほどなのです。この映画を一言でいえば「珍品」です。なぜこんな映画が作られているのか、僕には理解できません。

 1950年代のアメリカ田舎町を思わせるような世界に、'60年代風のファッションで決めた双子の姉妹が登場し、彼女たちと結婚する間抜けな男ふたりが現れる。姉妹の父親は、マーロン・ブランド扮する刑務所長。姉妹と結婚するのは、チャーリー・シーン扮するレッカー業者と、トーマス・ハーデン・チャーチ演ずるダイナーのウェイター。刑務所長は自分の気に入らない囚人をわざと脱走させては射殺するという、困った趣味の持ち主。ドナルド・サザーランド扮する地方検事は所長に弱みを握られていて、この不法行為を見て見ぬ振りしている。しかし、不審な囚人の連続死に疑問を持ったFBIの女性捜査官が、刑務所の実態を調査しようと町を訪れる。姉妹と結婚し、刑務所長の家に同居し始めたふたりの男は、奴隷のようにこき使われる毎日にウンザリし、カナダ政府の現金輸送列車を襲う計画を立て始める……。

 プレス資料ではミラ・ソルヴィーノの主演作のように見せていますが、物語の中心にあるのはチャーリー・シーン演ずる娘婿と、マーロン・ブランド扮する義父の確執です。ところがこの映画は、それ以外の雑多な要素がゴチャゴチャと物語にまとわりつき、奇妙な不協和音を終始響かせ続けます。シーンとブランドの「義理の父子関係」と、ドナルド・サザーランド扮する地方検事と、ミラ・ソルヴィーノ扮するFBIエージェントが「実の父子関係」にあるという並列関係も、まったく対比として効果を上げていません。父と娘がなぜ不仲になったのか、娘がどのような危機に遭い、それに父がどのような形で関わるのか……。こうした重要な情報がすっぱりと抜け落ちているので、ドナルド・サザーランドほどの俳優がただ登場して消えて行くだけ。

 脂肪の塊のようになったマーロン・ブランドが、『黒い罠』のオーソン・ウェルズ以上の極悪ぶりを発揮します。しかし、この役がブランドでなければならない必然性なんて、小指の先ほどもありはしない。ハイティーンの娘を持つ父親としては、マーロン・ブランドは年を取りすぎだし、娘たちの母親がどこに消えたのかも明らかではない。ブクブクに太ったブランドは身体のキレが悪くて、義理の息子たちがなぜ彼から逃げ出せない理由も説得力はゼロ。74歳のマーロン・ブランドが、息をするのもだるそうにモゾモゾ演技をしている様子は、『スターシップ・トゥルーパーズ』に出てくる白くてグニャグニャした巨大昆虫みたいで気持ち悪いぞ!

(原題:FREE MONEY)


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