アルナーチャラム
踊るスーパースター

1999/03/02 徳間ホール
『ムトゥ/踊るマハラジャ』のラジニカーント主演最新作。
前半と後半でふたつのおいしさ!by K. Hattori


 昨年秋の東京ファンタでクロージング作品として上映された、“スーパースター”ラジニカーント主演のインド映画。上映時間2時間46分で、途中に休憩が入るのが嬉しい。休憩までの前半は、農村を舞台にした『ムトゥ/踊るマハラジャ』風のミュージカル。後半は舞台を都会に移して、ミュージカル場面を減らしたシチュエーション・コメディになる。長尺映画だが、話は単純でわかりやすいし、恋あり、冒険あり、出生の秘密あり、悪漢との戦いあり、陰謀あり、ギャンブルあり、政治ありで、内容は盛りだくさん。とりあえず事件が次々起こるので飽きることはないのだが、切ろうと思えばどこでも切って短くできるという、なんとも不思議な映画だ。

 タミル地方の小さな村で、大富豪アンマイヤッパン家の長男として人々から尊敬を受けている青年(!)アルナーチャラムは、都会から来た従姉妹のヴェーダヴァッリと恋に落ちる。周囲もこの恋を祝福し、てっきりふたりは結婚するものと誰もが思っていた矢先、アルナーチャラムの祖母が意外な事実を暴露する。アルナーチャラムはじつは赤ん坊の時に拾われてきた孤児で、アンマイヤッパン家を相続する資格がないというのだ。それまで実の父や母、兄弟だと信じていた人たちが、自分とは赤の他人だったと知って、アルナーチャラムは大いにショックを受ける。良縁を祝福していたヴェーダヴァッリの父親も、アルナーチャラムが無一文の孤児だと知って娘の結婚に大反対。傷心のアルナーチャラムは、ひとり故郷の村を去って、大都会に出て行くのだった……。と、ここまでが全体の四半分ぐらい。この後、主人公アルナーチャラムがじつは大富豪の御落胤だったことがわかり、彼は莫大な遺産を相続することになる。

 社会的なテーマなど持ち込まない予定調和型の娯楽映画なので、大富豪の跡取り息子がじつは孤児だったことがわかって恋人と別れさせられたものの、後から彼が大富豪の息子だとわかってハッピーエンドという展開自体に文句をつけるつもりはない。ただ、恋人の父親が結婚に反対する理由が「名門の息子だと思ったのに、じつはどこの馬の骨だかわからない男じゃないか」という部分にあり、彼が大富豪の息子だとわかったとたんに「私が悪かった。結婚を許しましょう」と手の裏返してしまうあたりが、どうしても引っかかる。アルナーチャラム本人は「天涯孤独な孤児だと思っていたのに自分のルーツがわかって嬉しい。遺産は放棄しますから、貧しい人たちのために使ってください」とじつに潔いのですが、恋人の父親やアンマイヤッパン家の人々が、そうした主人公の人柄に惚れ直したのか、それとも大富豪の親族とお近づきになることが喜ばしいのか、ちょっと区別が付かないのが欠点と言えば欠点でしょう。

 去年のファンタで『DDLJ/花嫁は僕の胸に』を観てしまった僕は、インド映画にももっと洗練されたミュージカルがあることを知っています。あの映画の後にこれを観ると、いかにも野暮ったい田舎料理です。

(英題:ARUNACHALAM)


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