ライフ・イズ・ビューティフル

1999/03/02 松竹試写室
ユーモアと機転で強制収容所を生き抜くユダヤ人の物語。
重いテーマの作品だが印象は軽やか。by K. Hattori


 昨年のカンヌ映画祭で審査員グランプリを獲得し、今年のアカデミー外国語映画賞にもノミネートされているイタリア映画。時代は第二次世界大戦直前の1939年、ところはイタリア・トスカーナ地方の小さな町アレッツォ。本屋を開くためにこの町にやってきたユダヤ系イタリア人のグイドは、小学校の美しい女性教師ドーラに一目惚れし、あの手この手で彼女にアタック。ついに彼女のハートを射止めて結婚にこぎつける。だが戦争とファシズムは平和な街にもしのびより、グイド一家はナチスの強制収容所に送られてしまう。ユダヤ人ではないドーラも、愛する家族と共に収容所行きの列車に乗り込む。5歳になったばかりの息子を収容所の中で生き延びさせるため、グイドは息子に、収容所で行われていることはすべてゲームだと説明する。「軍服を着た悪者に見つからないようにかくれんぼをするんだ。最後まで見つからなければ、ごほうびに本物の戦車がもらえる」と……。

 監督・脚本・主演はロベルト・ベニーニ。彼自身はユダヤ系ではないのだが、父親がドイツの捕虜になったことがあるという。イタリアのユダヤ人がなぜドイツの収容所に入れられてしまうのかよくわからないのだが、このあたりがヒトラーのユダヤ政策の不条理な部分だ。ヒトラーは一方で連合軍と戦争をしながら、もう一方でヨーロッパ中からユダヤ人を狩り集めていた。戦時中の交通網は、兵士や兵站物資の輸送で手一杯のはずなのに、わざわざその合間を縫ってユダヤ人を強制収容所に運んでいる。ユダヤ人なんて放っておいて戦争に集中した方が、戦争遂行には有利だったと思うんだけど、ヒトラーはそれをしない。こうしたドイツの政策は、まさに狂っているとしか思えないのだが、当時のヨーロッパ諸国はこのドイツの政策を支持、あるいは黙殺した。当時のイタリアには4万5千人のユダヤ人がいて、そのうち8千人がドイツの収容所に送られたという。生き延びて帰ってきたのは、そのうちごくわずかだったそうです。

 ヒトラーによるユダヤ人絶滅計画という歴史上の狂った時代を、ひとりのイタリア人がユーモアで切り抜けようとする姿は感動的です。同じように「笑いが人生を救う」というテーマでも、『パッチ・アダムス』の何倍も素敵な映画です。映画の前半は、まだ平和な時代のトスカーナが舞台。主人公グイドがドーラを劇場から連れ出し、夜の街を散歩しながらマリア様にお祈りすると、何でも願いがかなってしまうという場面が大好き。ここではグイドの頭のよさとユーモア感覚が、すべて描かれています。ここでグイドの「誠実な嘘つきぶり」を観ているから、収容所に行った後の話も嘘っぱちに見えない。

 歴史の中にポッカリあいた暗闇の中で、ユーモアという小さな光を灯し続けた男の物語。テーマの重さに比べて、映画の印象は軽やかです。収容所の中で離ればなれになった夫婦が、互いの生存を信じて強く生き抜く姿は感動的。思わず涙がこぼれそうになる場面もあります。最後の最後まで、一瞬たりとも目が離せない映画でした。

(原題:LA VITA E BELLA)


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