DOG-FOOD

1999/02/26 映画美学校試写室
妻の思い出に後ろ髪を引かれる若いサラリーマンの1週間。
俳優・田辺誠一の映画監督デビュー作。by K. Hattori


 若手の二枚目俳優として、数々の映画に積極的に出演している田辺誠一の監督デビュー作。全編がデジタル・ビデオで撮影された47分の短編映画だが、これは観ていてツラかった。まず画面が暗い。次に話がわかりづらい。ベトナムへの転勤を1週間後に控えた若い男と、彼の家から出ていった妻、若い恋人、犬、近所に住む外国人(イラン人?)の青年。登場人物はたったこれだけ。人間4人と犬1匹だ。物語らしい物語はない。事件はせいぜい、犬が自殺(?)することぐらい。画面が見づらいのはビデオ撮影のせいだけでなく、ことさら被写体を逆光で撮影したり、少ない照明で薄ボンヤリと照らしているせい。僕は主人公の妻と恋人の見分けがつかず、そのせいで最期まで話がよくわかりませんでした。家に帰ってきてからプレス資料を見て、ようやく話がわかった次第。話は飲み込めたのだが、でもやはりわからない。

 そもそも僕には、主人公の気持ちがさっぱりわからないのだ。彼と妻の関係もよくわからなければい、彼と恋人との関係もよくわからない。監督・脚本・主演を兼ねる田辺誠一本人には、たぶん彼の主人公の気持ちが分かっているのだろう。でもそれが、画面を通して観客には伝わってこない。妻が去り、妻と一緒にその思い出も去り、犬が去り、転勤によって恋人や家に出入りしている外国人とも別れる。喪失感や未練のようなものが、彼を包み込んでいる。でも、それにドップリと浸っている主人公の気持ちに、僕はどうしても共感できない。「それがどうした」「男なら仕事しろ」と怒鳴りたくなってしまう。主人公の湿っぽいモノローグも、なんだか自己憐憫のように思えて、これって結局はナルシズムの裏返しなのではと思ってしまった。孤独や喪失感は、必要以上に強調すると嫌味です。「僕って孤独なんだ」「すべてがむなしい」というメッセージが繰り返されると、それは気取ったポーズのように見えて逆に嘘っぽい。

 この映画を一言で表現すれば「退屈な映画」ということになる。そもそも、これが映画なのかという問題もあるのだが……。デビュー作なので、あれこれ細かく注文を付けるべきではないのかも知れないが、これはとてもお金を取って人様に見せられるようなものではない。この作品は3部作として製作されるそうで、第2部はポルトガルでの撮影が終了しているのだそうだ。そちらもこれと同じ調子でやられたら、ちょっとたまらないぞ。

 これはあくまでも一般論だが、デジタル・ビデオで撮影した低予算映画は、これからも続々と作られ、劇場で公開されることになると思う。でも「お金がかかるフィルム撮影」という枷がなくなったことで、映画と呼べるレベルに達しない未完成な作品が、大量に映画市場に流れるのだとしたら、それはちょっと恐い。ビデオ映画は、ちょっとお金と時間があれば「とりあえず」で作れちゃう。でも観ている側は、「とりあえず」観ているわけじゃないのです。僕はビデオ映画自体を否定するつもりはないけれど、作品のレベル低下は避けてほしいと思う。


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