平成侠客伝

1999/02/15 GAGA試写室
竹内力演ずる謎の男・鉄が、初老やくざに最後の夢を見せる。
全体に漂うトボケた味わいがユニークです。by K. Hattori


 ビデオ映画の世界でトップスターの地位を誇る、ご存じ竹内力主演の仁侠ロマン……だと思って映画を観たら、これが以外や奇妙な味わいの小品でした。何しろこの映画の主人公は竹内力ではなく、やくざ稼業から足を洗うこともできないまま、だらしない老人になりつつあるひとりの男なのです。この映画は、そんな彼が死ぬ前に最後の一花を咲かせる物語。竹内力は彼を助ける、あの世からの使者。映画のタッチは全然違うけど、『ジョー・ブラックをよろしく』のアンソニー・ホプキンスとブラッド・ピットみたいな関係か……。いや、だいぶ違うな。監督は『大怪獣東京に現わる』の宮坂武志。ものすごくシリアスな場面で見せるトボケた味わいは、この監督の持ち味かもしれない。この映画も物語自体は「ノスタルジックな異色やくざ映画」なんですが、それをじつにユーモラスな味付けにしているのです。

 サラリーマンなら定年という年を迎えた安田組組長・安田万二郎は、昔ながらの「義理と人情」の世界にドップリ浸かり、組織を近代化できないままズルズルと組が衰退するに任せていた。若い構成員たちはそんな組に愛想をつかして逃げて行き、残ったのは“金魚”という奇妙な名の若い男だけ。同じ地区で長年ショバを分け合ってきた山西組の組長は、万二郎とは幼い頃から兄弟のように育った間柄なので、衰退した安田組もすぐにつぶれることはない。しかし山西組の下部組織である坂崎組は、安田組に何かとちょっかいを出してくる。勢いのある坂崎を、山西も抑えきれないでいる。このままでは遠からず安田組も終わりだ。そんな時、安田組長の前にひとりの男が現れた。鉄と名乗るその若い男に男に、安田組長はどこかで会った覚えがある。その記憶は戦後の焼け跡で復員兵に食べさせてもらった、1杯のライスカレーにつながっていた……。

 序盤から独特の雰囲気があって、結構笑えます。主要登場人物が次々死んで行くなど、中身はかなり陰惨なものなのですが、登場人物がみな個性的なのでつい笑ってしまうのです。くたびれた安田組長、ダジャレ好きの山西組長、ダンディな坂崎組長と、どうにもヘンテコリンなその部下、出っ歯美人のソープ嬢などなど……。板坂の部下が出張ヘルスを呼んでよがり声をあげるシーンなんて、物語そのものにはあまり関係ないんですが、この場所にこのエピソードがあるとやっぱり笑っちゃう。安田組長の「愛してるぞ」にほだされて組に出入りするようになるソープ嬢も、わざわざかわいい女の子に付け歯を入れてブスにしている。こうしたズレ具合が、映画全体に独特のリズム感を生み出しています。

 ただし、こうしたテンポが最後まで持続しなかったのは残念。“金魚”が死んだことで主人公側のメンバーにあった結束がゆるんでチームとしての面白さがなくなるし、竹内力演ずる鉄の過去を最後に映像で見せる必要もないと思う。安田が格好よく死んだところで、この映画はお開きにすべきだったと思うけどな……。


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