薔薇の葬列

1999/02/10 徳間ホール
30年前に作られたピーター(池畑慎之介)のデビュー作。
ゲイボーイが主人公の現代版「オイディプス」。by K. Hattori


 ピーターこと池畑慎之介の、芸能生活30周年記念としてリバイバル公開される、今から30年前のATG映画。当時16歳だったピーターは、この作品で衝撃的なデビューを飾った。彼が演じているのは、新宿のゲイバーに勤めるエディという名のゲイボーイ。店の経営者である権田と深い関係になったエディは、長年権田の愛人だった店のママを追い出して後がまに座る。だがエディには、権田にも隠している秘密があった……。と、話をかいつまんでしまうと、ひどく単純な物語。この映画は当時の若者風俗を巧みに織り込みつつ、幻想とも現実ともつかない回想シーン、同じ時間を循環させる大胆なカットバック、コマ落としやハイスピード撮影、ハイキーやハイコントラストなどの特殊な映像、有名人のゲスト出演、さまざまな引用やパロディなど、ありとあらゆるテクニックを駆使して、パイ生地のように折り重なった、難解な物語世界を作り上げている。

 オープニングは、権田と抱き合うエディの映像。権田を演じているのが土屋嘉男だというのに、ちょっとびっくり。じつはこのふたり、共に黒澤映画の出演者です。ピーターは『乱』で狂言回しの狂阿彌を演じているし、土屋嘉男は『七人の侍』や『用心棒』『赤ひげ』などで重要な役を演じているレギュラー俳優です。そんなふたりが仲良く抱き合っているのを見ると、なんだか黒澤映画のパロディみたいで可笑しい。もちろんこの時のピーターは、自分が後に黒澤映画に出るなんて夢にも思ってなかったでしょうけどね。

 物語自体は現代版「オイディプス」といったもの。荘厳なギリシャ悲劇の世界を現代に翻案するには、この映画ぐらいの仕掛けがないと難しいかもしれない。この映画はATG作品で、モノクロ・スタンダード画面。プロの俳優は土屋嘉男以下数えるほどで、あとはピーター含めてすべて素人を起用。撮影が禁止されている新宿の路上でゲリラ撮影を行うなど、低予算もいいところ。それでも映画が安っぽくならないのは、出演しているゲイボーイたちがすべて“本物”だということと、ピーターの存在感によるところが大きいと思う。1時間47分の映画の内、実際の物語はたぶん半分ぐらいしかなくて、残りを風俗描写にさいているところもいい。学生運動、マリファナ、街頭パフォーマンス、フーテン族、ヒッピー、乱交パーティー、ゲイボーイ、スケバンなどの風俗描写に深入りすることなく、それぞれの断片をモザイクのように映画の背景に置いている。こうすることで、「オイディプス」の舞台装置を作っているのです。

 実験的手法が目立つ映画なので、今観ても十分に面白い映画だけど、観ていても楽しい映画ではない。ゴダールの『気狂いピエロ』と同じように、この映画もいろいろな要素のごった煮です。その混沌とした様子が面白い。物語の本筋である「オイディプス」については、特に感心するところもない。むしろ背景にある風俗描写の方が、標本サンプルみたいで興味深く感じます。


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