ローカルニュース

1999/01/28 東宝東和一番町分室
地方局ニュース取材班のダラダラした取材風景がリアル。
中村義洋監督の劇場映画デビュー作。by K. Hattori


 地方テレビ局で企画ニュースを担当している若いディレクターを中心に、やる気のないカメラマンとアルバイトの演劇青年、女性レポーターなどが繰り広げる珍道中。企画ニュースというのは、事件を取材する報道ニュースではなく、地域の風物や人物を取材した小さなドキュメンタリーのようなもの。この映画には、「喋る文鳥」「凧揚げ名人」「逆立ちダイエット」「現代の忍者たち」といった企画に、主人公たちが駆り出されて行く。小さなバンに、ディレクター、カメラマン、アルバイト、レポーターが乗り込み、小さなビデオカメラと録音機材を積み込んで現場に急行。好きも嫌いもありゃしない。番組を埋めるためには材料がいるのだ。面白そうな話には何でも食いつけ。嘘でなければ脚色はOK。どれだけやる気がなかろうが、現地では当初の予想にない事態が次々に起ころうが、すべては結果オーライの世界なのだ。

 監督・脚本の中村義洋は、この映画が一般劇場映画デビュー作。初めての作品を、欲張らずに65分の中編映画にしたところがいい。これをあと20分増やして長編にしようとすると、各登場人物の内面や、画面に映らないエピソードまで盛り込む必要が出てきて、この映画にある「薄っぺらな面白さ」はなくなってしまうだろう。この映画には、スタッフの私生活はほとんど描かれていない。ディレクターが取材先の女性と仲良くなるエピソードがあるが、これはワンポイントのアクセントのようなもので、映画全体のトーンを壊さない程度にとどめられている。むしろこれがあることで、他の場面の薄っぺらさがより引き立っていることに注目したい。

 この映画では、登場人物のそれぞれが互いの生活に干渉したりしない。現場でトラブルがなければそれでOK。出来上がったビデオに問題さえなければ、あとは何をしようと勝手にしてくれという、徹底した「浅いつき合い」に終始する。例えば、現地集合の時間に遅れたレポーターが、私生活でどんな事情を持っているのかは、この映画ではまったく無視されてしまうのだ。普通の映画なら、アルバイトの青年が何か大失敗をやらかすとか、レポーターが失踪して撮影が立ち往生するとか、取材先で大事件が起こるとか、物語に仕掛けを作っておくと思うのですが、この映画にはそれが一切ない。この映画はそうした「何も起こらない日常」の中にあるおかしさを、たっぷりと見せてくれるのが面白い。まるで普段の取材風景を見学しているような自然さです。同じように企画ニュースの製作現場を描いていても、『[Focus]』とは正反対の場所にあるのがこの映画なのです。

 テレビ局の取材スタッフを映画が描くと、どうしてもテレビやメディアや報道のありかたを「批判」しがちですが、この映画にはそうした姿勢がほとんど見られない。テレビ取材の裏側を描きつつ、これはどんな職場にも起こりうる人間関係を描いているのです。この映画を観てしまうと、他のメディア批判映画は「これ見よがし」で「物欲しそう」なものに思えてしまうほどです。


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