カフェ・オ・レ

1999/01/13 シネ・ラ・セット
『憎しみ』『アサシンズ』のマチュー・カソヴィッツ監督デビュー作。
白人と黒人の青年に愛される混血少女の物語。by K. Hattori


 『憎しみ』『アサシンズ』が既に公開されているフランスの若手監督マチュー・カソヴィッツが、'93年に作ったデビュー作。この映画で彼は、監督・脚本・主演の3役をこなしている。この作品は既にビデオも発売されているそうなのですが、昨年「カソヴィッツ特集」で数回上映された際に好評だったので、今回あえて都内単館でレイトショー公開されたもの。こんな事情なので試写も行われず、僕は久しぶりにお金を払ってレイトショーの映画を観る羽目になりました。お金を払うのも一般劇場で映画を観るのも嫌ではないんですが、レイトショーを観ると、夜中に仕事をする時間が減るのが困るんです。でも、こればかりはしょうがないな……。

 正直言って、観てよかった映画です。カソヴィッツ監督は『憎しみ』や『アサシンズ』だけ観ていると、非常に深刻で暗い作風が目についてしまう人ですが、『カフェ・オ・レ』はコメディタッチの異色恋愛ドラマで、観ていてとても楽しかった。これを観なければ、僕はカソヴィッツ監督について、非常に偏った見方しかできなかったと思う。「なんだ、こんな映画も撮れるんじゃないか!」という軽い驚きが、この映画にはあります。

 舞台はパリ。18歳の少女ローラは、褐色の肌の混血美女。彼女は恋人の子供を妊娠したのだが、じつは同時にふたりの男性と付き合っているため、赤ん坊はどちらの子供かわからない。恋人というのは、アフリカ某国の外交官子息でイスラム教徒のジャマルと、バンリューに家族と住むユダヤ人青年フェリックス。褐色の美少女を中心に、白人と黒人の青年ふたりが、恋の鞘当てを繰り広げることになる。ローラは子供を生むつもり。子供が産まれれば、父親がどちらかは一目瞭然だろう。3人は関係の整理を一時棚上げしたまま、妊娠中のローラをサポートすべく、奇妙な共同生活を始めるのだ。

 フランスはカトリックが圧倒的多数を占める国なので、イスラム教徒の黒人青年も、ユダヤ人の白人青年も、社会的にはマイノリティ・グループに属している。この映画の中では、黒人青年の方が教養があって裕福、白人青年は無教養で貧しいという、一般的な人種ステレオタイプからは逆転した人間関係も生じている。そうした意味で、この映画が人種や宗教などの社会的テーマを描こうとしているのは明白。ジャマルとフェリックスは、しばしば人種差別的な言葉で、相手を罵倒したりもする。だが映画の基調はあくまでもラブ・コメディ。『憎しみ』や『アサシンズ』では前面に押し出されていた社会的テーマも、この映画では物語の背景として描かれるに留まり、あくまでも男女3人の人間関係が主要モチーフになっている。ひょっとしたら、これがカソヴィッツ監督本来の持ち味なのかもしれない。『憎しみ』や『アサシンズ』も、ストーリー中心に見なおした方がいいかな。

 フェリックス役はカソヴィッツ監督本人。その兄を、今や売れっ子のヴァンサン・カッセルが演じている。ジャマル役は『憎しみ』にも出ていたユベール・クンデ。

(原題:Metisse)


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