必殺 三味線屋勇次
闇の糸

1999/01/12 松竹試写室
人気の「必殺シリーズ」最新作は若い仕事人の悲恋物語。
ヒロインを演じた天海祐希がきれい!by K. Hattori


 『必殺!主水死す』から3年ぶりに復活した、シリーズ最新作。資料では『必殺!三味線屋・勇次』だが、映画のタイトルは『必殺 三味線屋勇次/闇の糸』になっている。こういう場合、どちらが正しいタイトルなのだろうか……。監督は田原俊彦主演の新・必殺シリーズ『必殺始末人』の石原興。テレビの必殺シリーズでずっと撮影を担当し、いくつかのエピソードで演出も経験している人物です。脚本の野上龍雄も、必殺シリーズの常連脚本家です。主人公・勇次を演じている中条きよし以下、天海祐希、阿部寛、名取裕子といった豪華な顔ぶれ。前作『必殺!主水死す』で退場した藤田まことも、かつて関西で仕事人の元締めをしていた伝兵衛という老仕事人役で出演し、クライマックスでは華麗な立ち回りを披露。主水の死でシリーズが終了したと思っていたファンにとっては、嬉しい新作の登場でしょう。

 本作で仕事人たちのマトになるのは、火盗改と組んで副作用の大きな媚薬・回春丸を密売し、巨万の利益を得ている薬種商・富貴屋藤兵衛。回春丸はバイアグラを思わせる薬だが、副作用で廃人になる者が続出し、表向きには発売禁止の薬になっている。薬を開発した上州屋九兵衛は、自分の売った薬で被害者が出ていることに大きな責任を感じ、娘を残して姿を消した。自ら命を絶ったと考えられていた九兵衛だが、じつは富貴屋に幽閉されて、回春丸の処方を明らかにするよう強く迫られているのだ。富貴屋は出回っていた回春丸を秘かに買い集め、闇で売りさばいては、副作用で倒れた人たちを私設の養生所に収容し、二重三重の暴利をむさぼっていた。

 回春丸の話で物語を引っ張るのかと思わせて、この映画ではもう少し込み入った話が展開する。若い仕事人の弥助と、上州屋の娘おとよのロマンス。弥助の師匠にあたる、関西の老仕事人・伝兵衛の登場。謎の仕事人、浪人・内田平内の活躍。島抜けして弥助のもとに転がり込んだ、若い兄弟の話。その兄弟のひとりと町娘の恋。富貴屋や火盗改の悪事を手伝う、腹黒い岡っ引き。回春丸で父が死んだことから、上州屋を恨む若い男……。

 正直言って、これは話にいろいろな要素を詰め込みすぎです。話がこんがらかって理解不能になっているわけではありませんが、この話は、恋のために仕事人から足を洗おうとする弥助と、心の傷を乗り越えて弥助の愛を受け入れようとするおとよの話だけを、もっとクローズアップしてもよかったと思う。その方がふたりの気持に素直に入り込めて悲劇も盛り上がるし、最後の仕事の場面も、悲壮さと怒りの気持が入って来たと思う。

 おとよを演じている天海祐希は背が高いので、和服が似合うか多少心配しましたが、弥助役が背の高い阿部寛なのでバランスは悪くありません。彼女が弥助に向かって「私は今のままでいい。時々来ますから、その時はかわいがってください」と言う場面は、何とも切なくて涙が出そうになったぞ。正直言ってあまり期待していない映画でしたが、ものすごく楽しむことができました。


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