地獄の破門状

1999/01/05 浅草新劇場
昭和44年製作の日活オールスター総出演による仁侠映画。
女のドラマを男の側から描いて失敗。by K. Hattori


 大正時代の浅草を舞台にした、昭和44年製作の日活オールスター仁侠アクション映画。地元のやくざとケンカ沙汰を起こして東京を離れた元新内語りの小林旭と、東京に残って彼の行方を探そうとする恋人の浅丘ルリ子、その弟の渡哲也、やくざ稼業に嫌気がさして小料理屋の主人になった高橋英樹、東京から姿を消した芸人を兄の敵と狙う宍戸錠が、善良な庶民を食い物にする悪徳やくざ組織に立ち向かう。監督は『赤いハンカチ』など裕次郎とのコンビ作が多い職人監督・舛田利雄。

 やくざ映画でありながら、主人公を堅気の芸人にし、舞台を浅草黄金期にしたのは面白い。オープニングはシネスコ画面を舞台のように使い、幕がスルリと横に開くと、小林旭と浅丘ルリ子が新内を語る場面になるという趣向。スタッフ・キャストのタイトルも巻紙に書かれた文字を巻き上げるように、左から右にゆっくりとスクロールして行く。ただし、絵としての面白さで人目を引くのはここまでで、あとは至ってオーソドックスな演出。流麗な語り口で、物語をなめらかに運んで行く。欠点は語り口がなめらかすぎることで、物語の主人公が最後まで誰なのかよくわからない。スター俳優が何人も出演して、それぞれに格好の見せ場を用意した結果、全体の焦点がぼけてしまったようにも見える。

 やくざとの手打ち式で水銀を飲まされて自慢の喉を潰した小林旭が、恋人の浅丘ルリ子を残して東京を離れる。僕はてっきり、最後に小林が帰ってきて、浅丘ルリ子と幸せになるものだとばかり思っていた。ところが彼女は、やくざから足を洗った高橋英樹と夫婦になってしまう。話の流れとしては決して不自然ではないし、彼女に何の落ち度があるようにも見えないのだが、この三角関係の描き方があまりにも薄くてあっさりしすぎているのは気になった。小林が東京を去ってから2年の間に、浅丘と高橋は人生の辛酸をなめ、それを互いに励まし、支え合いながら生きてきた。波風の立たないそれまでの生活を捨てて、ふたりは人間的に一回りもふた回りも大きく成長しているのだ。そんなふたりが、自分にとって掛け替えのないパートナーとして互いを選び取る。大阪まで流れて、女のヒモのような生活をしていた小林旭が、浅丘ルリ子に捨てられるのは当然なのだ。

 この物語は、本来なら浅丘ルリ子が主人公になるべきなのだ。彼女には、映画以前に小林旭との幸せな日々がある。映画の前半で、彼女は彼の帰りを心待ちにする「待つ女」を演じ、物語の後半では、自ら高橋英樹を「選び取る女」へと成長して行く。こうして中心に浅丘を立てれば、映画が小林旭と高橋英樹に引き裂かれて散漫な印象になることも避けられたはずだ。もっとも当時の日活では、そうした「女性の視点」を映画に盛り込めなかったのかもしれない。同じ脚本で、現代風にリメイクしてもいい作品だと思う。女性の視点からこの映画を再構成すると、ちょっと毛色の変わった仁侠映画になったと思うのですが……。誰かやらないかな。


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