コメディ・フランセーズ
演じられた愛

1998/12/17 シネカノン試写室
フランスの国立劇場、コメディ・フランセーズのドキュメンタリー映画。
監督はアメリカ人のフレデリック・ワイズマン。by K. Hattori


 フランスの国立劇場(国立劇団)であるコメディ・フランセーズを徹底取材した、3時間43分の長編ドキュメンタリー映画。コメディ・フランセーズは1680年に当時のフランス国王ルイ14世の命によって発足したというから、なんと300年以上も続いている由緒正しい劇団なのだ。モリエールやラシーヌが活躍したこの劇団創生期の様子は『女優マルキーズ』に描かれているし、18世紀の劇団の様子は『ボーマルシェ/フィガロの誕生』にも描かれている。演劇の歴史は人類の歴史と同じぐらい古いのでしょうが、現存する国立劇場の中で最古のものは、おそらくこのコメディ・フランセーズだろう。

 さすがに3時間43分は長い。休憩もないので、お尻や身体が痛くなります。お腹も空きます。(僕は昼食抜きで午後から試写を観たので辛かった。食事にありついたのは夕方5時頃でした。でも、食事をしてからこの映画を観たら、たぶんほとんど寝てしまったと思う。)『タイタニック』や『七人の侍』のように、「観はじめたら時間が気にならない」という映画では決してない。僕は何度も何度も時計を見ながら、「あと2時間」「あと1時間半」「あと50分」とカウントダウンしてました。でも、それはこの映画がつまらないという意味でも、観るのが苦痛だという意味でもない。この映画はとても興味深い作品だし、観ていて面白いし、観終わった後は充実感と満足感に加え、ある種の感動があることは間違いない。長さがきちんと、内容に奉仕しています。

 映画には説明的なナレーションが一切ありません。3ヶ月間に渡って延々撮影したフィルムを、取捨選択して時系列に編集してあるだけ。役者以外にも、普段は舞台に立たない裏方のスタッフや、劇場の運営委員たちが登場しますが、画面には名前や役職を示すテロップさえ現れない。にもかかわらず、4時間近いこの映画を観終わると、劇場内部の人間関係や機構が、なんとなく飲み込める仕組みになっているのです。

 映画の中で時間の進行を表すのは、上演作品の稽古やリハーサルから、実際の上演に至る過程をすべて記録している部分でしょう。稽古場での台詞の読み合わせや立ち稽古、衣装を付けてのリハーサル、舞台稽古、やがて舞台は本番を迎えます。まさに、舞台制作の「舞台裏」を見ているようで、これは面白かった。衣装やメイクの準備、大道具や小道具の作り込みなどに、劇場のスタッフが総動員されているのもすごい。衣装係がレースの飾りに小さなコテでアイロンをかけている場面を見ているだけで、舞台作品の製作に数多くのプロフェッショナルが動員されていることがわかります。

 コメディ・フランセーズが他の大劇場と異なるのは、国立劇場でありながら、徹底した自治組織を持っていることでしょう。国の体制が何度も変わる中で300年間劇場を維持するには、こうした運営組織が必要なのかもしれません。演劇の歴史を継承して行こうという態度には、本当に頭が下がりました。すごいです。

(原題:La Comedie Francaise / ou l'amour joue)


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