教えられなかった戦争・沖縄編
阿波根昌鴻・伊江島のたたかい

1998/12/09 イメージフォーラム
『人間の住んでいる島』と同じ沖縄の反戦地主を描くドキュメンタリー。
阿波根さんはスゴイ人だが、映画は結論が強引。by K. Hattori


 映画を観始めてすぐに、この映画の主人公である阿波根昌鴻さんが、以前観たドキュメンタリー映画『人間の住んでいる島』でも主人公として登場していたことに気づいた。阿波根さんは、沖縄本島の西に浮かぶ伊江島の反戦地主。戦前は島内に広大な畑を持っていたのだが、自慢の畑は戦争で穴だらけにされ、戦後はアメリカ軍の基地や演習場として問答無用で取り上げられてしまった。阿波根さんをはじめとする十数世帯の農民は、生活の糧である農地を強制的に追い立てられ、行くあてもないまま青空の下に放り出される。ここから阿波根さんたちの、土地奪還に向けた長い戦いが始まる。やがて沖縄は日本に復帰した。だがアメリカ軍基地はなくならない。阿波根さんたちの戦いは、今も続いているのだ。

 同じ人物を主人公にしているため、『人間の住んでいる島』と『教えられなかった戦争・沖縄編』の印象はかなり似通ったものになっている。製作者たちがどんな形でフィルムを編集しようと、阿波根昌鴻という生身の人間が持っている迫力にはかなわないのだ。スクリーンで阿波根さんが話し出した途端に、僕の目は彼に吸い寄せられてしまう。僕は前回『人間の住んでいる島』を観たときも阿波根さんの生き方に感服したが、今回改めてこの映画で彼に再会して、ますます彼のすごさを思い知らされたような気がした。とにかく、このねばり強さはただごとではない。人間がここまで強くなれることに、僕は素直に感動してしまうのだ。

 僕は『人間の住んでいる島』が、阿波根さんの土地奪還闘争にかこつけて、最後に「基地のない平和な沖縄をかえせ!」という着地点に至るのが不満だった。「農民から銃で奪い取った土地を返してほしい」という素朴な土地奪還運動には大いに同情するものの、それが「反基地闘争」や「平和運動」と結びつくことに、僕は多少の違和感を感じたのだ。しかしそんな疑問は、今回『教えられなかった戦争・沖縄編』を観て氷解した。沖縄の土地奪回運動は、'60年代にベトナム反戦運動と結びついて、「反基地運動」「平和運動」と密接にリンクしたのだ。こうして伊江島の農民たちの「財産権」を巡る抗議運動は、反戦平和という全世界的なテーマと結びつく。

 阿波根さんはクリスチャンであると同時に、筋金入りの社会主義運動家だ。阿波根さんが戦前から社会運動家・西田天香に傾倒し、農民による自給自足の素朴な社会主義的共同体「一灯園」に自分の目指す農業の理想を見ていたことが、この映画には克明に描かれている。反基地運動は左翼運動なのだ。『人間の住んでいる島』では、こうした阿波根さんの「左翼」としての側面を切り捨てて、思想信条に偏りのない市民運動や平和運動として描いていた。結局そこに、我田引水の欺瞞がある。

 『教えられなかった戦争・沖縄編』は、アジアに対する日本の経済侵略が、日米安保の後ろ盾に支えられていることを糾弾する。だがこうしたメッセージが登場するラストの30分は、阿波根さんとは関係ないんだよね。


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