ニノの空

1998/12/03 メディアボックス試写室
本当の恋を探して放浪する男ふたりのロードムービー。
クスクス笑って、最後はちょっとホロ苦い。by K. Hattori


 ヒッチハイカーに車を盗まれ途方に暮れたセールスマンのパコは、偶然通りかかって町まで車に乗せてくれた女性マリネットと親しくなる。「妻とは短期別居中で、3週間後に離婚するか否かの結論を出すことにしている」と語るパコとマリネットは恋に落ちるが、じつはパコの話は同情を引くための嘘だった。マリネットは「私たちの気持ちを確かめるために、3週間、互いに連絡を取らずに過ごしてみましょう」と提案する。パコは町で再会した車泥棒のニノと共に、3週間の旅に出る。

 パコはカタロニア出身のスペイン人で、ニノはイタリア系のロシア人。育った土地も持ち合わせた文化も違うふたりが、異国フランスで育む奇妙な友情。フランス人の婚約者に逃げられて以来、故郷に帰ることもできずに放浪を続けているニノは、女の子に持てたいばかりに車を盗んだのだと告白する。ベテラン放浪者のニノと、放浪初心者パコの立場はここで逆転する。運命の恋に出会って気持ちに余裕のあるパコは、何とかニノに恋人を作ってやろうと世話を焼きはじめる。映画の中盤は、男ふたりがあの手この手で女性をものにしようとする様子が描かれていて、この映画で一番楽しい場面になっている。「どんな町にも必ずお前に惚れ抜いてくれる女はいるんだ。問題はその女をどうやって見つけ出すかだ」と息巻いたふたりは、小さな町で「理想の男性」についての大アンケートを実施。町で知り合った車椅子の黒人バチストとともに、街頭で「ボンジュール・フランスごっこ」をする場面も面白かった。

 ロードムービーは、一緒に旅をする人物の立場が要所要所で入れ替わって行くのが面白い。この映画では、車を盗まれた被害者と加害者という立場で、最初はパコが圧倒的に有利な立場にある。ところが怒り狂ったパコがニノを見つけて殴りかかり、彼に怪我をさせてしまってから立場が逆転。旅慣れたニノが食堂のウェイトレスを口説きはじめるあたりまでは、圧倒的にニノの方が有利な立場にある。ところがそのウェイトレスが友人を連れてきて4人で食事になると、女性はふたりともパコに夢中でニノは置いてけぼり。「彼女に部屋を追い出されて行くところがない」とぼやいていたパコが、意外なプレイボーイぶりを発揮して形勢が逆転します。この後も常にパコが物語をリードするのですが、最後の最後にニノが大逆転のホームランを放って、今度はパコがニノに保護される立場になってしまう。この脚本のうまさ。

 監督・脚本はマニュエル・ポワリエ。日本では昨年のフランス映画祭で『マリオン』(僕は未見)が上映された以外は、今回の映画が日本初登場。パコ役のセルジ・ロペスは本人もスペイン人。ニノ役のサッシャ・ブルドも本物のロシア人。バチスト役のバジル・シエクアはコートジボワール出身。この作品は、フランスで暮らす外国人ばかりが登場するユニークな映画なのです。彼らは全員、監督の個人的な友人。映画の温かい雰囲気は、そんな家庭的ムードから生まれているのかもしれません。

(原題:WESTERN)


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