スネーク・アイズ

1998/11/10 イマジカ第1試写室
ニコラス・ケイジが国防長官暗殺事件の陰にある陰謀を探る。
デ・パルマの華麗な映像テクニックが見もの。by K. Hattori


 大型のハリケーンが近づいているアトランティック・シティでは、1万4千人の観客でごった返すアリーナで、ボクシングの世界ヘビー級タイトル・マッチが行われる。だが試合の開始直後、観客席にいた国防長官が何者かに狙撃された。偶然現場にいた地元の警官リック・サントロは、直ちに現場を封鎖。長官を警護していた親友ケヴィンと共に、犯人逮捕と陰謀の解明に乗り出す。やがて姿を現すのは、リックが思いもかけない事実だった……。

 ニコラス・ケイジ主演の刑事アクション映画で、監督は映像の魔術師ブライアン・デ・パルマ。脚本はデ・パルマと何本かのコンビ作があるデビッド・コープ。映画は冒頭13分間に渡る驚異的な長回しに始まり、デ・パルマならではの映像サーカスがてんこ盛り。主演のニコラス・ケイジや共演のゲイリー・シニーズより、カメラが雄弁な芝居を見せている。人物の視点でカメラを移動させたり切り返したり、はては近眼の登場人物の視点を再現したりと、主観ショットがやたらと多いのも今回の映画の特徴だろう。僕もこうしたデ・パルマ流の華麗な映像表現が嫌いではないのだが、この映画は少々カメラが饒舌すぎる。物語に引き込まれるより、カメラの動きに感心してしまうのだ。カメラワークが物語に奉仕するのではなく、カメラのために物語があるような印象すら受けてしまうのでは、順序があべこべです。

 ではこの映画のストーリーが、饒舌なカメラに負けてしまうほど弱いものなのかというと、必ずしもそうではない。ゲイリー・シニーズが演じているケヴィン・ダン中佐の二面性は、『身代金』のシニーズを知っている人にとっては意外でも何でもないのだが、これは大きな欠点とは言えないだろう。主人公のリックが汚職警官で、自分に欠けた品行方正さや清潔さをケヴィンに求めている。リック自身は自分を汚れた警官だと自覚している。だからこそ、自分と正反対の「世界で一番正直な男=ケヴィン」と親友でいられることが嬉しいし、誇りに思っている。リックにとって幼なじみであり親友でもあるケヴィンは、自分に欠けた部分を代償満足させてくれる大切な人間なのです。。だからこそ、リックはケヴィンを守るために、獅子奮迅の活躍を始めてしまう。ケヴィンはそんなことを、少しも期待していなかったのに……。

 この映画のクライマックスは、リックがケヴィンからの金を受け取るか否かを迫られる場面です。ここではリックの行動動機が「親友を守ること」ではなく、「自分にとって大切な何かを守ること」だったことが明らかになる。リックがケヴィンに向かって「俺は傷ついた」と言うシーンには、切実な響きがありました。

 結局、人間は自分にない物を他人に求めてはいけないのです。他人の行動を見て代償満足を味わっていると、いつかそれは裏切られ、幻滅と失望を味わうことになる。リックはその高い代償を支払った。そんな意味では、この映画は非常に道徳的・教育的な内容の映画だと言えます。この内容が、デ・パルマらしくなかったりして……。

(原題:SNAKE EYES)


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