ヤジャマン
踊るマハラジャ2

1998/11/03 パンテオン
東京国際ファンタスティック映画祭
『ムトゥ/踊るマハラジャ』のラジニカーントとミーナの初共演作。
主人公ヤジャマンの愛と復讐の物語だ。by K. Hattori


 昨年のファンタで日本に紹介され、渋谷の劇場で一般公開されるや記録的な大ヒット、大ブームを巻き起こした『ムトゥ/踊るマハラジャ』の主演スター、ラジニカーントとミーナの共演作。邦題は『踊るマハラジャ2』になっているものの、これは『ムトゥ』より前に作られた別の映画なのだ。映画の前の舞台挨拶で小松沢プロデューサーは「2本の映画の関係は『サスペリア』と『サスペリア2』の関係」と説明していていました。ファンタだから通じるこの説明に、場内からは笑い声が起きてました。ヒット作があると関連映画をシリーズにしてしまうのは、他にも『荒野の用心棒』と『続・荒野の用心棒』とか、『沈黙の戦艦』と『沈黙の要塞』『沈黙の断崖』などいくらでもあるもんね。この映画のタイトルの場合、ファンに向かって「シャレですよ」と最初からバラしてしまうのがスゴイ。

 今回の映画祭には「『ムトゥ』の感動を再び!」という期待を胸にした“にわかインド映画ファン”が大挙して押し寄せました。(もちろん、その中には僕も入っていますが……。)でもこの『ヤジャマン』は『ムトゥ』のようなラブ・コメディではなく、夫婦愛、家族愛、仇敵の陰謀などの要素が絡み合った、それなりにシリアスな内容の映画。ラジニカーントとミーナの名前につられて観ると、肌合いの違いに驚くかもしれない。

 この映画のラジニカーントは、村人たちの尊敬を一身に集める大地主ヤジャマンを演じており、ミーナは彼のもとに嫁いでくる新妻です。しかしヤジャマンの人気に嫉妬した敵の男は、ミーナに毒を盛って子供を産めない体にし、「子供を作れない男など本当の男ではない」という悪評をばらまく。毒の影響でミーナは死に、腑抜けになったヤジャマン。やがて彼は敵の陰謀を知り、復讐のために立ち上がるのだ! がんばれヤジャマン!

 主人公のヤジャマンは勧善懲悪のヒーローというより、汚れきった世の中で高潔な精神を保ち続けている民衆の指導者です。彼は自分から敵に向かうことはない。あくまでも、敵から降りかかった火の粉を払うだけ。彼は完全無欠な人間かというとそうでもなく、畑で働いている人たちの弁当を盗み食いしてしまうような、お茶目な部分も持っている。右肩にかけたタオルを、両手でクルクルと回すクセも格好いい。見た目はただのオヤジですが、芝居にハッタリが聞いていて、映画の中では本当に光り輝いている。千両役者とはまさに彼のことです。

 僕は『ムトゥ』の楽しさを認めながらも、終盤のタネ明かしを台詞ですべて処理した構成は不満だった。その点『ヤジャマン』の脚本はよくできている。主人公夫婦の愛情関係がしっかり描かれいているから、妻の死で主人公が落ち込む様子にも納得がいく。主人公をギリギリまで追い込んでゆくからこそ、ピンチに颯爽と登場するヤジャマンの姿にカタルシスがあるのだ。こんなの基本ですが、『ムトゥ』にはそれが欠けてるんです。でも、映画としての面白さは『ムトゥ』の方が一枚上かな。

(原題:Yajaman)


ホームページ
ホームページへ