マイ・スウィート・シェフィールド

1998/10/21 TCC試写室
『ブラス!』のピート・ポスルスウェイトが若い女と恋に落ちる。
脚本家は『フル・モンティ』と同じひと。by K. Hattori


 イングランド北部の町シェフィールドは、映画『フル・モンティ』で日本の映画ファンにはおなじみの土地。この映画は『フル・モンティ』の脚本家サイモン・ボーフォイが、故郷シェフィールドを舞台に描いたもうひとつの物語。主演は『ブラス!』の頑固親父、ピート・ポスルスウェイト。共演は『ミュリエルの結婚』『ハーモニー』『革命の子供たち』などのオーストラリア映画で知られ、『ベスト・フレンズ・ウェディング』にも出演していたレイチェル・グリフィス。『フル・モンティ』と同じく仕事にあぶれた男たちの奮戦記で、今度は男たちがストリップではなく、高圧線鉄塔のペンキ塗りに挑戦。これにポスルスウェイト演じる主人公レイと、グリフィス演じるオーストラリア女性ジェリーの恋をからめてゆく構成。『フル・モンティ』の楽しさを期待すると、コメディ色が薄いことに戸惑うかもしれません。

 プレス資料でスタッフやキャスト、おおまかなストーリーなどを読んだときは、「これは面白そうだ」と思ったのですが、映画そのものはあまりノレなかった。そもそも、ピート・ポスルスウェイトとレイチェル・グリフィスが恋に落ちるという設定に、かなり無理がないだろうか。ポスルスウェイトは1945年生まれなので、まだ50代半ばなのですが、過去の出演作を観る限り、もっと年輩の役が似合う人だと思う。ことに最近は、『ブラス!』や『クライムタイム』で見せた、枯れた老人のイメージが強すぎる。彼は一方で『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』のベテラン・ハンターや、『ユージュアル・サスペクツ』の謎の日本人(?)なども演じているのですが、どっちにしろ「女との色恋はもう卒業だぜ」という感じがしてしまう。僕は彼とグリフィスがベッドに入るシーンや裸で抱き合うシーンを観て、どうしても違和感を感じてしまうのです。

 このキャスティングの違和感があるから、ヒロインのジェリーが主人公レイとの生活から逃れるように彼のもとを去る場面が、「生き方の違いを悟ったから」とはとても見えてこない。どうしたって「やっぱり年齢差があるから無理があるよね」と思えてしまう。彼女がレイとの関係に踏ん切りをつけるために、レイの友人スティーブとベッドを共にするシーンも、「やっぱり若い男がいいのだろうか」と思ってしまう。物語の上では決してそんなことはないのですが、スクリーンの中で1枚の絵としてレイとジェリーのカップルを見せられてしまうと、どうしたってそう思えてしまうのが人情でしょう。

 他にもこの映画には、腑に落ちない点がたくさんある。監督のサム・ミラーはこの映画がデビュー作だから仕方ないのかもしれませんが、普通の監督なら演出の勢いでごまかしたり、物語をはしょったりする部分が、テンポの悪さで全部観客にばれてしまっている。例えば、鉄塔塗りの仲間たちがどういう人たちなのか説明がないのは気になるし、彼らが最後に賃金を貰えたのかどうかも気になって仕方がない。どうも演出がちぐはぐなのです。

(原題:AMONG GIANTS)


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