踊る大捜査線
THE MOVIE

1998/10/15 東宝第1試写室
人気TVシリーズの映画版は、TVを見ていなくても楽しめる。
エピソードの面白さで最後まで引きつけます。by K. Hattori


 人気TVドラマの映画版。僕はTVの方をまったく見ていないのですが、映画だけでちゃんと内容はわかりました。もちろんTVを見ていた方が、登場人物の性格描写などがより楽しめるのでしょうが、「TVを見ていないから内容がわからないのでは」という心配は無用です。今回の映画版については、既にワイドショーなどで「小泉今日子がサイコキラー役で出演!」とネタバレ気味の報道がなされていましたが、これはあくまでも宣伝レベルのリーク情報で、最終的な謎解き部分に小泉今日子はからんでこないのだ。このあたりは、宣伝する方も報じる方もある程度心得ている感じです。

 映画は、警視庁副総監誘拐事件と、インターネットを使った猟奇殺人事件、湾岸署内で起こった窃盗事件が平行して描かれて行きます。次々起こる事件に振り回され、織田裕二扮する主人公・青島刑事は寝るヒマがない。副総監誘拐事件では本庁から大挙して人が押し寄せ、所轄署とは無関係に捜査を進めようとするのも気にくわない。そんなプロットだけ書けば、中身は普通の刑事ドラマと変わらないのですが、この作品のユニークさはリアルな「警察もの」としての面白さの側にあるのでしょう。

 「刑事ドラマ」が犯罪者と警察の対決を中心テーマにしているとすれば、「警察もの」の中心テーマは、警察組織の内部にある葛藤を描くこと。もちろん後者もドラマを進行させるにあたっては「刑事ドラマ」としての要素を含むわけですが、むしろ犯罪捜査を通じて浮かび上がる、警察の腐敗や組織の矛盾を描くことが中心テーマになる。最近の映画で言えば、『L.A.コンフィデンシャル』が「警察もの」と言えるかもしれません。『踊る大捜査線』では、日本の警察にある「キャリア」と「ノンキャリア」の二重構造がシビアに描かれているのがユニークです。これは『眠らない街/新宿鮫』などにも少し描かれていましたが、今までの一般的な刑事ドラマでは完全にタブーとされていたことでしょう。さらに、「警察組織は役所にすぎない」「刑事たちはサラリーマンだ」という描写をふんだんに盛り込むことで、スーパーヒーローや正義の味方とは違う、等身大の刑事たちを描くことに成功しています。

 映画としては、構成の点でやや物足りない点もあります。猟奇殺人事件の犯人は絵に描いたようなサイコキラーなのに、実際に起こった殺人事件は1件だけとは迫力不足。また、この事件と副総監誘拐事件とのからみが不十分で、物語が分断された印象を与えます。誘拐事件の捜査の緊迫した雰囲気に比べると、殺人事件の捜査が一本調子でひねりがないのも残念。このあたりはもう少し捜査を二転三転させて、両事件がほぼ同時にゴールインした方が面白かったかもしれない。

 演出に映画的興奮はあまりなく、あくまでもTVドラマの拡大版といった雰囲気。でも十分に面白い作品だと思うので、いっそのことTVシリーズではなく、寅さん映画のようなシリーズにした方がいいかもしれません。


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