ラスト・ゲーム

1998/10/01 徳間ホール
天才高校バスケット選手と父親の確執を描くスパイク・リー作品。
デンゼル・ワシントンが吹き替えなしで熱演。by K. Hattori


 スパイク・リー監督、デンゼル・ワシントン主演という、『モ’・ベター・ブルース』『マルコムX』のコンビによるバスケットボール映画。高校生プレイヤーのジーザスは、NBAや大学から引く手あまたの有望選手。甘い誘いは数あれど、彼自身は自分の将来を決めかねている。彼にバスケットを教えた父親ジェイクは、母親を殺して刑務所にいる。ところが自分の母校にジーザスを招きたいと考えた州知事は、ジェイクを一時出所させてジーザスを説得させようと考えた。成功の際は、ジェイクの刑期を短縮するという条件付きだ。見張り付きで刑務所を出たジェイクはジーザスに会うが、母を殺した父親を息子は許すことができないでいる。はたして父と子は和解できるのか。州知事のもくろみ通り、ジェイクは息子を説得できるのだろうか……。

 音楽はアーロン・コープランド。「アパラチアの春」「ロデオ」「庶民のためのファンファーレ」などの代表曲が巧みに編曲されて、物語を盛り上げる。オープニングはアメリカ各地の若者が、粗末なバスケットゴール目指してボールを投げるシーンのモンタージュ。これによって、バスケットというスポーツが紛れもなく「アメリカのスポーツ」であることが強調されている。音楽をコープランドの既成曲にしたのも、「アメリカらしさ」を強調するためでしょう。オープニングに続いて、刑務所の運動場で何本ものゴールを決めるジェイクの姿が映し出され、そこからジーザスのゴールシーンにつないで行く。まったく台詞のないこのシークエンスだけで、ジェイクとジーザスが親子であることを観客に納得させてしまうのは大したものです。

 映画は序盤でジェイクとジーザスの過去を伏せ、ジェイクがなぜ妻を殺したのかというミステリーで物語を引っ張って行く。しかし中盤以降あらわになるのは、有望な選手を獲得するため血まなこになるスカウト合戦の異常さ。裏金が飛び交い、接待責めとプレゼント攻勢で周囲から籠絡して行くスカウトの実体。加えて周囲の好奇心。金を期待して群がってくる人々。親戚も恋人も何かを期待し、ジーザスは徐々に人間不信になって行く。加熱するスカウト熱が、人間関係を壊して行くという描写がリアルです。テーマとしては、小林正樹監督が野球選手のスカウト合戦を描いた『あなた買います』と同じ。優秀な選手が貨幣価値を生み、それが人間関係を破壊してしまうというテーマは、『あなた買います』の方がより辛辣に描かれていたと思う。

 序盤から中盤までは面白いのだが、オチの付け方が中途半端に感じる映画です。この映画は社会派ドラマにできるのにそれを避け、最後は家族の物語に落ち着かせている。それがいかにも、とってつけたようで気取って見えるのです。ミラ・ジョヴォヴィッチが演じている娼婦が町を出る場面も、同じリー監督の『クロッカーズ』で主人公が町を出るシーンに比べると情感に乏しい。もっとスリリングな映画にできるはずなんだけどなぁ……。

(原題:HE GOT GAME)


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